昨日の続きがはじまると思う人は愚かである。
続くわけがないであろう。
大学に入った息子が、三島で下宿している。
末っ子なので、家内がうるさくかまう。
昨日、家内が「寒くない?」とメールを入れたらふざけた返事が来た。
「暖かい人ばかりだから寒くない」
その返事を見て家内が指折り数えている。
息子が帰ってくる日を待ちわびて数えているのか?
ちがう。
短歌を作ろうとしているのだ。
家内は、二年前から歌人妻である。
家内が与謝野晶子なら、私は鉄幹と言いたいが、鉄幹と言うよりアルミ缶くらいなとこである。
助言ならできる。
時々新聞の歌壇に掲載されるのを励みにしている。
朝日新聞の歌壇には、常連がいる。
オランダのモーレンカンプふゆ子さん、パリの美帆しぼさん、アメリカの監獄にいる死刑囚、郷隼人さんとか、特異な環境の人が多い。
で、私は家内にこういう歌なら入選するとすすめた。
灼熱の浜辺に出でて名も知らぬ蟹とたわむるセネガルの子ら
ングヌンツァ博子 在セネガル
このアイデアを家内は採用しなかった。
何か歌のネタになるものがないか目を光らせている。
私が日記のネタを探すのと同じだ。
で、昨日の息子からのメールが、上の句になる!とひらめいたのだ。
暖かい人ばかりだから寒くない遠くで学ぶ息子のメール
私は、「遠くで」ではしまらない、具体的地名にしたほうが良いとアドバイスした。
三島では弱い。
三島には悪いが、この歌の中で使うには弱い地名だ。
「仙台ではどうか」
「東北大学の学生だと思われる」
「札幌は」
「北大」
「小樽」
「小樽商科大学」
「稚内」
「わっかんない」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにネッ!」
私の最終案。
暖かい人ばかりだから寒くない刑務所にいる息子のメール
刑務所の息子を思う母心。
ここは良い人ばかりだから安心して、と母を気遣う息子の心。
文学的深みもあり、入選間違いなしだと思う。
もし家内の名前でこの歌が掲載されても、ウチの息子が刑務所にいるわけではありませんのでご心配なく。
芸術至上主義夫婦であることをご理解ください。
問題は、朝日歌壇の選者が、刑務所でケータイが使えるのか、と疑問を抱きはせぬかと言うことだ。