若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

は、早い!つ、強い!

母のいる施設に行く。

私の仲良し、Mさんは、車椅子から微笑んでくれる。
かろうじてわかってもらっているのか。

おやつはカステラとコーヒー牛乳だった。
母は、食べることも忘れているので、スキを見て口に入れる、という感じである。

母に食べさせたり、Mさんが食べるのを手伝ったりしていた。

Mさんが食べながらぶつぶつ言う。
聞き取りにくいが、「わけわからん」「おかしい」と言っているようだ。
今の自分の状態を言っているのだろうか。
口八丁手八丁で立派な企業の創業者である自分が、いったいどうなってしまったのかと不思議に思っているのか。

Yさんがテーブルの向こうにふらふらとやってくる。
いつも泣き出しそうな顔で、舌をヘンな風にべろんと出して、よたよた歩く人である。
たえず、「ほ・・っちゃ!ほ・・っちゃ!」と言っている。
お茶がほしいと言っているのだ。
この人は、いつも何か食べたがっている。

職員の若い女性が、「Yさん、もうおやつもすんだでしょ。お茶も何杯も飲んだでしょ」と言った。

Yさんは、母に食べさせているカステラを見て、「お・・か・・し」と言う。
私も、「Yさん、もう食べたでしょ」と言った。

その瞬間、テーブルの向こうからYさんがサッと身を乗り出すと、目にもとまらぬ早業で母に食べさせていたカステラを取って、一気に食べてしまった。
早い!
Yさんはテーブルの向こう側だし、動きの鈍さから考えて、油断していた。

このヨボヨボのYさんに、稲妻のようなと言うかレーザービームのごときと言うか電光石火と言うか、こんなアクションが可能とは。

ボーゼン自失!
「ワーハッハッハ!見たか鹿之助!」と高笑いされても仕方のないところである。

カステラの後はお茶だ。
YさんはすばやくMさんのコップを取った。
さっき、何杯も飲んだと聞いていたので、飲まない方がいいと思って私はYさんからコップを取り上げようとした。

ここの入居者は、握力だけは強い。
人間は握力の強い動物なのだ。

私が取り上げようとしてもYさんは放さず、ふんぎゃ〜!とコップに口を近づけると、ズルズルチュウ!とコーヒー牛乳を飲んでしまった。

私の完敗であった。

私がよほど力の弱い、鈍い男だと思われるといけないから言っておきますが、90歳のおばあさん相手に、本気で、全力をあげて闘ってるわけではないですよ。