若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

思い出

亡くなられた橋本先生の奥様から礼状が来た。
先生の思い出を手紙に書いて出したからだ。

「ファックス、お供えしています」と書いてあった。
「ファックス」?
なんのことか?

私はワープロで書いたので、奥様はたぶんそのワープロの手紙のことを、「ファックス」と言っておられるのだろう。
なんとなくお年を感じさせる私好みの間違いである。

亡くなった人の思い出を書くのは三回目だ。

何年か前、仕事で世話になっていた方が亡くなった。
たぶん、奥さんがご存知ない面もあるだろうと思って手紙を書いた。

この方の上司である営業部長は、かなり強烈な個性の人で、朝早くから率先してトイレ掃除をするので有名だった。
みんな仕方なく早朝トイレ掃除に付き合っていたようだ。

十年ほど前、Aさんという部下がなくなったとき、この部長は、社内報に
「A君が一生懸命トイレ掃除している姿を思い出す」と書いた。
他の姿を思い出せなかったのかと思った。

三十年ほど前、高校の美術クラブの後輩であった女性から電話がかかって、「弟が自殺しました」と言った。
彼も美術部員だった。

彼が美術室で私に、西郷輝彦がテレビで、スコット・マッケンジーの「花のサンフランシスコ」という曲を歌ったのがよかった、としゃべったことなんかを書いて送った。

私が死んだ時、誰か家内に手紙を書く人がいるだろうか。
家内が知らない私の意外な一面、というのはなさそうだ。
つまらん。

十年ほど前九州の伯母が亡くなったとき、実子がいなかったので私が相続の手続きをした。
伯母は、昭和のはじめにアメリカに留学し、倒れるまで大学教授として幼児教育一筋で勳何等かをもらった人である。
海外にも気軽に出て行ったし、身辺を飾るわけでもなく、明治生まれの賢い女性の典型みたいな人であった。

相続について弁護士に相談した。
私が、伯母には実子がないと言うと、弁護士は笑って、それは分かりません、どこかから名乗り出てくるかもしれません、と言った。
私も負けずに笑って、伯母に限ってそんなことはありません、と言った。
弁護士は、シロートはこれだから困ると言うように笑って、そういう人に限って出てくるもんなんですよ、と言った。

そうらしいですよ。