昼、電車に乗っていると車内放送。
「お客様にお知らせいたします」
行楽地の案内だろうと聞き流していたので、言葉は聞こえているが、内容が頭に入らなかった。
「この先で、架線に風船のひもが巻き付いておりますので、安全のため一時パンタ降下いたします。電気が消えますがご安心下さい」
三度放送があってやっとわかった。
「パンタグラフを下げます」と言うべきだ。
「パンタ降下」したようで、電車が止まって電気が消えた。
「あ!電車止まった!」
となりの女の子が声をあげた。
見ると、若いお母さんと三人姉妹だ。
声をあげたのは幼稚園くらいの次女だ。
姉が小学三年くらいで、妹は三歳くらいか。
三人とも可愛い。
フランス人形とか日本人形とかいうのじゃなくて、普通に可愛い。
それで十分だ。
文句あるか。
下の子が、「だれかひかれたんとちがう?」と言った。
お姉ちゃんが、「んもー!ちがうって!ちゃんと聞いてなかったん?」
お母さんが、「小さいんやから、わかれへんでしょ」
三人で仲良くふざけている。
このお母さんの黄金時代だ。
駅に着いて一家が降りる。
下の子もお姉ちゃん達に続いて一人で降りようとする。
「おかあさん!手をつながないと危ないですよ」と言おうと思ったら、お母さんが手を出して
「お手手お手手!こわいこわいこわい!お手手お手手お手手!」
ところが女の子は、小さな唇を真一文字に結んで、お母さんの手を振り払った。
「こわいこわいこわい!落ちるよ!お手手お手手!」
断固拒否!
無視!
その面構えたるや・・・。
恐ろしいもんだ。
このちいちゃな、色の白いぽちゃぽちゃの女の子が。
おかあさん、これはお手手はムリですなー。
女の子は電車からホームへぴょんと飛んだ。
我家にもこういう時があった。
黄金時代であった。