「ホームレスホーム」というのはヘンな言葉だと思うが、実際に使われているらしい。
「ホームレスの人を一時的に住まわせる家」を言う場合もあるようだし、ビニールシートのテントを指す事もあるようだ。
友人のS君から封筒が届いた。
何かと思ったら、パンフレットが出てきた。
S君が考えた、「ホームレスホームの提案書」だ。
彼とは、高校の美術部以来だから、40年以上の付き合いになる。
デッサン力は天才的だった。
現在、某国立大学の美術系の教授だ。
パンフレットを読んだ。
「ホームレスが社会的に大きな問題になっているが、都市景観の面から、一般住民との共存を考えたい」と書いてある。
青いビニールシートは見苦しいので、それを撤去して、プラスチック製のカプセルを用意するよう提案している。
得意のコンピュータ・グラフィックスを駆使して、道路沿いや公園にそのカプセルが並んでいるカラー画像が印刷してある。
高さ1.2メートル、長さ3メートルくらいの、一見SF映画の宇宙旅行冬眠用カプセルだ。
どう見ても「モダンなゴミ箱」だ。
このカプセルに人が出入りするところを想像するだけで吐き気がするようなグロテスクな画像だ。
S君には、こういう愚かなところがある。
彼の愚かさに気づいたのは、知り合ってすぐだ。
美術部の用事で二人で自転車で出かけた。
彼がハンドルを握り、私は後ろに乗っていた。
下り坂にさしかかったとき、彼は、両手を放しても慣性の法則で倒れない、と言って、私がとめるのも聞かずに手を放してひっくり返ったのだ。
彼の前歯が欠けているのは、そのときの名残だ。
しかし、愚かにもほどがある。
早速メールを入れた。
「君がこれまでしてきた中で最低最悪の仕事だと断言できる」
すぐ返事が来た。
ある新聞記者から、「自分でその中に住んでみろ」と言われたが、新しい提案というものは理解されにくい、と嘆いていた。
大学での仕事としてこれをいろんな方面に配ったのだ。
いろんな方面から、彼に向かって石が投げられるのではないかと思う。
こんな書き方をすると、彼に石が投げられることを望んでいるようだが、その通りだ。
私は友人だから、彼に遠くから石を投げることなどできないではないか。
誰かにやってもらう他ない。
私にできることは、彼のそばにいてムチでしばき続けることだ。