「腹部」と「胸部」で、数年前亡くなった家内の叔母のことを思い出した。
家内が大変可愛がってもらった叔母だ。
陽気な、冗談の多い楽しい人だった。
結婚前、家内の実家で紹介された。
挨拶がすむと、叔母はじっと私を見てから家内に
「いや〜、写真で見るよりずっと男前やないか!」と言った。
私は、「はい。よくそう言われます」と正直に答えた。
その叔母が数年前、乳癌と診断された。
転移していて、半年の命という事だった。
本人には知らされなかった。
叔母が入院している大きな病院に、家内と見舞いに行った。
叔母はいつもと変わらず元気そうで、後半年の命などとはとても信じられなかった。
楽しくしゃべった。
叔母が
「乳癌て胸部外科かと思ってたら、腹腔外科やねんな〜。なんでやろ?」
と言ったので、私は
「叔母さん、30代までの乳癌は胸部外科で、40代以降が腹腔外科になるんです」
「どうして?」
「たれるから」
などと言ってみたい誘惑に激しくかられたのであったが、必死に思いとどまった。
家内に張り倒されると思ったからだ。
叔母はきっとゲラゲラ笑っただろうと思うと、非常に心残りである。
しばらくして叔母は退院して自宅で最後を迎えることになった。
診断通り、叔母の症状は急速に悪化した。
亡くなる少し前に見舞った。
それが叔母との最後の対面になった。
しゃべっているかと思うと眠ってしまうような状態だったが、陽気さは元気な時と変わらなかった。
叔母は色が黒く、そのことを大変気にしていた。
家内は色が白い。
ならんでいると、「黒子さん」「白子さん」だ。
私は、病床の叔母に
「叔母さんは、○子(家内)と似てますね」と言った。
「そうかなあ」
「二人とも頭いいし」
「ふんふん!」
「料理は上手やし」
「うんうん!」
「美人で」
「そうそう!」
「色は白いし」
「ぷっ!アハハハハ!」
叔母とは、初対面も最後も、結構息があってたと思う。