若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

追い剥ぎ

「追い剥ぎ」というと、「日本昔話」に出てくるひげだらけの間抜けな男というイメージで、なんだかほのぼのとした感じさえ漂うように思うが、国語辞典で見ると、「路上で人を脅し、金品や衣類を奪うこと」とあるから、今で言う強盗みたいなものというか、強盗そのものであるから、恐ろしいものなのだ。

追っかけてきて剥ぎ取られるのだと思うと非常に恐ろしい。

地域新聞に、「私の好きな道」というシリーズがある。
「読者が選んだ奈良の素敵な道」を紹介してある。

今日は、「歌姫街道」が紹介されていた。
姫町から木津のほうに抜ける道らしい。
私は「アウトドア派」ではないので、そんな道は知らない。
写真が出ているが、なるほど、「街道」と呼ぶにふさわしい雰囲気だ。

紹介しているのは、男性で、年に何度かこの道を歩くそうだ。
静かなよい道だそうで、それは結構なのであるが、この方の言葉に引っかかった。

「3、40年前は追い剥ぎが出た道です」

3、40年前というと、私が高校か大学のころだ。
追い剥ぎが出たのだろうか。
強盗ではないのか。

「歌姫街道で追い剥ぎ」と聞いて、ほのぼのしてしまうのは私だけか。
「国道163で強盗」というよりは味わいがあると思う。

「歌姫町」というのは由緒ある名前だ。
私はアウトドア派ではないので、歌姫街道を汗とほこりにまみれて歩くような馬鹿なことはしないが、書斎派として地名の由来などは知っている。

私は書斎派として、自分の城であるペルシアじゅうたんを敷いた書斎で、パイプを片手に、子ヤギの皮を張ったアームチェアに深々と腰を下ろし、チークの重厚なデスクに向かい、卓上のシルバーのペーパーウエイトや、クリスタルのブランデーグラスなど、おしゃれな空間を演出するゴージャスな小物たちに囲まれ、アールデコの電気スタンドの柔らかな光の下でゆったりと書物を紐解いて、満ち足りた大人の男の時間を過ごすようなことはしたことがない。

電車に揺られて本を読むだけだ。

「歌姫」は「古事記」にも現れる地名で、半島からの渡来人が多く住む村であった。
仏教伝来によって肉食が嫌われるようになるまでは、彼らは豚をよく食べた。
殺される豚の悲鳴が毎日のように聞こえたので、「豚悲鳴村」と呼ばれ、それがいつしか「歌姫村」になったというこだが、「古事記」に書いてあることだから、あてにはならないと思う。