若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

私を蹴って!

昨日、母のいる施設で。

先日私を指差して、「バカ!」とののしった女性、いつも怖い顔のKさんが、人形を抱いている。
20センチくらいの、「あかちゃん人形」だ。
Kさんはニコニコと、まるで本当の赤ん坊に対するように笑いかけ、話しかけている。

Kさんの言葉は不明瞭だが、時々聞き取れる。
「『お父ちゃん』て、言うてごらん」
「うん?あっち、いこか」

おでこをこすりつけたり、本当に幸せそうだ。

入居者の女性で、人形を赤ちゃんのように扱う人は多い。
男性には何を持たせればいいのか。
おもちゃの札束?
鉄砲?刀?
ろくなものはない。

男性入居者に多いのは、意味もなく怒鳴る人だ。

「おい!」

奥さんを呼んでいるつもりなのか。
私たちの世代では、こういうボケ老人はなくなりますよ。

私が子供のころ、昔のおまわりさんは、「オイ!コラ!」と市民を怒鳴りつけたものだと聞かされた。
こういう老人をビデオにとって、昔の男は奥さんを「オイ!」と怒鳴りつけたものだという史料にするとよろしい。

私のかつての仲良しMさんは、最近ほとんど無言だが、目の色はしっかりしている。
きのうも、Mさんの車椅子の前にしゃがんで話しかけていると、私を見ていたMさんの目がアヤシク光った。
色っぽく、というのではありませんよ。
なんちゅうか、「むむ、なにかたくらんでるな!」という感じだ。

と、Mさんは右足で私をけった。
もちろん、「ける」と言っても、右足で私に触れた、と言うくらいのもんですが。

「どうして蹴るの?」
Mさんは、じっと私を見ている。

しばらくして、また右足をゆっくり動かして、私を蹴った。

目を見ていればわかるが、Mさんにはまだこういう積極性というか自発性が残っている。
いたずらっぽさが残っている。
94歳のMさんだが、「かわいい目」と言えないこともない。

もうMさんと言葉を交わすことはないだろう。
できることなら、亡くなる前に思い切り蹴っ飛ばしてもらいたいものだ。