どて君に任せた撮影が心配で急いだあまり、ギターを置く時、棚でおでこをゴツンと打ってしまった。
かなり強く打ったので、今日もまだひたいがひたい。
どて君の撮影をなぜそれほど心配するかというと、前科があるからだ。
何年か前、彼とはじめて会った発表会で、何も知らない私は自分の演奏の時、彼に撮影を頼んだ。
彼は一見まともに見えるのだ。
この時、私のギターソロはかなりうまく弾けたのでビデオを楽しみにしていた。
ボーカルの丑之助君の地獄の狂牛の絶叫に続いて私のギターだ。
カメラがさっと動いて私のアップ、と思ったら、なんと!アップになったのはスピーカーではないか!
これはいったい・・・?
ボーゼンとする私をあざ笑うかのように、私が一生懸命ソロを弾いている間、画面はエンエンとスピーカーのアップなのであった。
長いギター生活の中で、これほどの屈辱を味わったことはない。
だから今回彼にだけは撮影させたくなかった。
しかるに、彼は私の横にずっと張り付いて、撮影させてほしそうに私に流し目を送るではないか。
そうか、汚名挽回、名誉回復の機会を与えてほしいのか。
仏心を出して彼に撮影を任せたのが悲惨な結果を招くことになろうとは、神ならぬこの身には知る由もなかった。
カメラ席に急ぎながら見ると、どて君が、おどおどと怪しい動きでカメラのあちこちを触りまくっている。
私は彼に、触らなくていいと言っておいたのだ。
私のアップなどあきらめていた。
それなのに、彼はカメラを触りまくっている!
いやな予感がした。
どて君は私に気づくと、カメラを手にぎょっとした表情を浮かべて立ちすくんだ。
「女湯を盗撮中のところを見とがめられた挙動不審の男」という感じだ。
「どうしたんや!」
「い、いや、て、て、て、停電で・・」
しどろもどろだ。
「停電?」
液晶画面は暗黒だ。
すでに次の人が歌っているというのに!
「どこを触った?」
「い、いや、ど、ど、どこも・・・ドコモのケータイはさらにおトク」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにねッ!」
こういうときにしょーもないしゃれでごまかそうという神経が分からない。
彼はあらゆるボタンを押しまくったみたいで、カメラを分解しての修理には時間がかかり、改めて撮影しようとした時、発表会はすでに終わっていたのであった。