土曜の電車はすいている。
座ってボーっとしていた。
次の駅について、ふと気づくと、乗ってきた女性が背中をこちらに向けて、上体を少しひねってホームを見やっている。
髪の毛を束ねた、黒っぽいスーツの女性だ。
ホームに恋人でもいるのだろうか。
こちらを向いたので顔が見えた。
中年の女性だ。
恋人ではなさそうだ。
なんともいえない微笑を浮かべている。
満ち足りた微笑、と言うような感じだ。
電車が動き出した。
女性はまた上半身を傾けてホームをのぞきこむようにしている。
ホームにいたのは、私立中学の制服を着た男の子だった。
似てる!
息子だな。
にきび面で非常に不機嫌そうな顔をしている。
中学生の男の子特有の仏頂面だ。
友達以外にはすべてこの顔なのだ。
朝っぱらから母親といっしょなのでよけい不機嫌そうにしているのだろう。
電車がゆっくりと動く。
女性は右手を胸の辺りに上げて、遠慮がちに小さく振った。
男の子は知らん顔だ。
むすーっとして正面を向いている。
完全無視。
電車が速度を上げる。
女性はこちらを向いて、穏やかな微笑を浮かべたままドアから離れた。