若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「主君『押込』の構造」を読む

笠谷和比古さんのこの本は、「近世大名と家臣団」の関係について考察したものである。

「押込」というのは、家老などの重臣たちが、殿様を強制的に隠居させて、新しい殿様を立てることだ。
こういう目にあう殿様は、「バカ殿」だと思うだろう。
吉原で遊び狂うとか、罪もない家臣を切り殺すとか、「殿御乱心」で御家が危ない、という場合に押し込められるのは当然だ。

しかし、「名君」でも押込められることがあるようだ。
「名君」というのは「改革派」だ。
「従来のやり方ではいけない」と考えて改革を実行しようとして、「抵抗勢力」に押し込められる。

「バカ殿」と「名君」、一人二役の殿様もいる。
幼少のころから学問に励み、藩主となると早速人事刷新などの藩政改革に着手したが、抵抗勢力に敗れ、無力感と絶望から、やけくそになって遊び狂った殿様だ。

この二役早替わりを演じた忙しい殿様は、天保の改革で有名な水野忠邦などを出した譜代の名門水野家の七代目忠辰である。

この水野家の押込め騒動が、私にとってこの本のハイライトだ。
「近世大名と家臣団の関係」は、私にとって非常に興味あるテーマの一つではないから、著者には申し訳ないがヘンなところがハイライトになってしまう。

水野家の騒動は幕府の知るところとなり、幕府側からの介入が懸念された。
そこで、老中本多正珍の家臣が、水野家側にアドバイスをしたというのだ。

「筆頭老中の堀田様は、水野家とは親しい間柄だから問題はないとして、松平武元様は老中末席ながら頼もしいお方ですから、松平様にも事情を説明して、善処をお願いされたらどうですか」

親切なアドバイスだ。
問題は次だ。
「ウチの殿様は老中とはいえ、落ち目の方には薄情ですから、頼んでも無駄でしょう」

老中本多正珍を好きになってしまった。
この家臣も好きになってしまった。
このとき、水野家の人はどんな顔をして聞いていたのであろうか。

この五行だけでもこの本を読んだ値打ちがあるというものだ。