昨日、めがねを作りに行った。
コンピュータを使って、似合うデザインを選んでくれるという。
若い女性社員に案内されて、モニターの前に座る。
モニターの上部にカメラがついている。
「ハイ、お顔の写真取らせていただきますので、レンズの方見てください」
一瞬の後、モニター全面に私の顔のどアップが映った。
第一印象は、「きったねーおっさんやなー」というものであった。
自慢の三日月眉毛とつぶらな瞳、すっきりした鼻とおちょぼ口、チャームポイントのえくぼが映っているのは良いとして、顔全面の小じわ中じわ大じわしみそばかすあばたほくろ吹き出物虫刺され等、私が生きてきた58年という歳月のあとが、余すところなく細大もらさずはっきりくっきり情け容赦も遠慮会釈もなく赤裸々にむき出しに、2600万画素デジタル一眼レフの威力を発揮して精細に映し出されているのを至近距離で直視させられたのは不愉快であった。
私はふくれてプイと席を立った。
「あ、お客様!次の画面でデザインをお選びください」
女子社員があわてて声をかけた。
画面から私の顔が消えたと思うと、またぱっと私の顔が現れた。
おお!
これは・・・!?
さっきの私の写真だが、なんか違う。
これなら許せる!という感じだ。
いいんじゃないでしょうか。
「さっきの写真とどこか違うね」
「いえ、お客様ですよー」
わかってます。
「なんか違うよ」
「いえいえ!ご心配なく。お客様です」
「あのねー、さっきの写真とどこか違うでしょ」
「はあ・・あの、これはですね、美顔術というか、さっきのお顔にファウンデーションをうっすら塗ったというか・・・」
す、すばらしー!
ファウンデーションをうっすら!
客商売はこれでなくてはいけませんよ。
「さっきの写真が真実のあなたです。ありのままの自分を受け入れなさい!」などというせりふは、心理療法家に任せておけばよろしい。
あのままでは売れるめがねも売れませんよ。
私は気を良くしていすに座りなおした。
しかし、そのまま気を良くしているには私はあまりに理性的な男だ。
「うっすら」?
ほんとか?
八代亜紀、小林幸子、大衆演劇座長クラスの塗り方ではないのか。
まあ、細かいことはよろしい。
男も化粧だ!
口紅、ほほ紅、アイシャドウ、マスカラは慣れてからとして、ファウンデーションは明日からでもはじめよう。