朝刊の死亡記事。
メキシコの音楽家、コンスエロ・ベラスケスさんが亡くなった。
有名な画家の子孫かと思ったらちがうようだ。
「ベサメムーチョ」を作詞作曲した人だ。
「ベサメムーチョ」なら知っている。
私と同じか上の年代で、「ベサメムーチョ」を知らない人はないだろう。
知らなければ日本人ではない。
日本人でないどころか、ポール・マカートニーも映画の中で何気なく歌っていたから、この曲を知らなければ人間でないと言ってもいいだろう。
いつ聞いたとかいうものでもなくて、とにかく知っていた。
誰が歌っていたとかいうものでもなくて、とにかくいろんな人が歌ったり演奏したりしていた。
と思う。
聞こうと思って聞いたことはない。
感動したということもない。
それなのに、私の心にへばりついて離れない曲だ。
不思議な曲だ。
朝日新聞には、「ベサメムーチョ」とは、「たくさんキスして」と言う意味だと書いてあった。
ほんとか。
「カラムーチョ」というスナックがある。
すごく辛い、たくさん辛い、という意味だろう。
ここから、「ムーチョ」は「たくさん」という意味である!という結論を出すのに時間はかからない。
論理的にものを考える能力がある人間なら誰しもこの結論に達するはずだ。
そして、多少とも英語の知識のある人間なら、「ムーチョ」は、英語の「much」と同じラテン語から来た言葉だと考えるだろう。
そして、多少ともダジャレの心得のある人間なら、「ムーチョ」について、むーちょっと考えてみようと思うはずだ。
さて、問題は「ベサメ」だ。
「ムーチョ」が「たくさん」なら、「ベサメ」は「キス」だ。
しかし、「ベサメ」についてはなんの手がかりもないし、「ベサメ」と「キス」には何の関係もなさそうだ。
「ベサメ」と関係ありそうなのは、「じんべー鮫」くらいだ。
かなり苦しい関係だ。
スペイン語がわかる若い女性に向かって、「ベサメ!」と言ってみて、彼女が顔を赤くしたら、ひょっとすると「キス」という意味かもしれない。
言ったとたん、彼女にほっぺたをひっぱたかれたら、きっと「キス」という意味だろう。
スペイン語がわかる若い女性が見つかるまで、慎重を期して判断を保留するものなり。