若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

婚約指輪

高校の同窓のA君が亡くなった。

学生時代は知らなかった。
私が結婚する時、友人のS君に、「Aの店で指輪買ったら?」と言われて初めて知った。

S君に店に連れて行ってもらった。
大阪でも有数の繁華街の堂々たる店だったので感心した。
創業何百年と聞いて、また感心した。
A君は、柔らかな物腰で、いかにも老舗の大きな宝石店の若き経営者といった悠々とした態度なのでまたまた感心した。

世間話をするうち、A君は、景気が悪くて非常に苦しいと言う話をした。
S君と私に、店にある一番安い二千円のネックレスでもいいから買ってくれないか、と言った。

見かけだけで判断して、悠々たる態度、などと思った自分の甘さを恥じた。
A君が店の奥に入ったとき、私はS君に、二千円のネックレスを買うと言った。
S君は笑った。
「やめとけ。『二千円のネックレスでも』はあいつの口癖や」

そ、そうなのか。
見かけだけで判断して悠々たる態度などと思った自分の甘さを恥じて二千円のネックレスを買おうと思った自分の甘さを恥じた。

A君は、婚約指輪の予算を聞いた。
そして、ケースにそれくらいの値段の指輪だけ入れておくから、彼女に気に入ったものを選んでもらったらいいと言ってくれた。
親切だと思った。

後日、H子さん(注:現妻)とA君の店に行った。
A君は、用意したケースを私たちの前に置いた。
一列に五つほどのダイヤの指輪が五段くらい並んでいた。

ダイヤの値打ちなんてわからんものだと思った。
上の二段は大変大きなダイヤで高そうに見えた。
下のほうは小さい。
とても同じ値段とは思えなかった。
輝きとか、傷とかで大きなダイヤでも安いのだろう。

H子さん(注:現妻)に、どれでもいいから選んで、と言った。
彼女が上の段ばかり見ているので、やはり素人だなと、おかしかった。

一番上の左端のを持った彼女は、アラマアと言って戻した。
二番目のを持って、「やっぱりいいのは高いのね」と言った。

?高い?

私は左端の指輪の値札を見た。
「9000000」
きゅ、九十万円!
完全に予算オーバーではないか。
見間違いかと思って見直して更に驚いた。
きゅ、きゅ、九百万円!

あわてて隣のを見ると、八百万!
上二段は数百万円の指輪だった。

「高いのもあるね」と言ったら、A君は、「参考までに入れておいた」と言った。

参考になりました。