若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

ひさしぶり

米寿を祝う会で珍しい人にあった。
同期のT君だ。卒業以来会うのは二度目である。

一度目は卒業して十年ほどした頃だ。
父が、我が家の先祖の墓に参ろうと言い出して家族で富山に行った。
帰りに立山に回ってバスターミナルで行列していたとき、ふと後ろを振り返ったら、登山姿のT君がいたのだ。

T君はすっとぼけた男だった。3年生の時、同じクラスの女性Aさんを好きになって告白したといううわさが流れた。T君が告白など信じられなかった。
私はT君をつかまえて江戸っ子で言った。
「おまえ、Aさんにホの字なんだってなあ」
T君は真っ赤になって
「やらしやっちゃな〜」と言った。

真っ赤になって「やらしやっちゃな〜」と言うのがT君のクセなのである。
ある夏の日、学校で絵を描いていたT君と私は、裏門を出たところにある小さな食堂に氷を食べに行った。

私は漫画を読みながら食べていた。食べ終わったT君が先に出るぞと言った。読み終わるまで待ってくれと言うのに出るという。何度も頼んだのに、とうとうT君は金をテーブルにおいて腰を上げた。

「出るぞ!」
「出てみい!『食い逃げや!』て叫ぶからな!」
「やらしやっちゃな〜」
T君は真っ赤になって腰を下ろした。

顔つきも髪型もしゃべり方もそのときのままのT君がくれた名刺には、「常務取締役」と書いてあった。
偉くなったもんだと見上げたT君の顔には、「いつも取り締まられてます」と書いてあるように思った。

会がすんでから、T君たちと飲みに行った。時々いっしょに飲む同期の女性Kさんや後輩の女性たちがいっしょだ。先輩や後輩が混じると、話がややこしくなる。私が高校3年のとき落第しているからだ。あの時どうしたとか、誰は何年下だとかいう話になるとこんがらかる。

T君がこんがらかった。
Kさんが説明した。
「若草君は落第したからよ」
「あ・・・あ・・そうか・・・」
T君は非常にばつの悪そうな、すまなさそうな顔をした。

私は十数年前、周囲の人が私の落第について気を使っているのを初めて知って驚いた。私は半分しゃれのつもりで落第したので、まあ、ちょっとマネの出来ない大技を決めたようなつもりだったのだ。
周囲の人は、「この野郎!しゃれた真似しやがって!」と感嘆していると思い込んでいた。

思い込みを破ったのはS君の奥さんだ。