寝屋川市の小学校で、卒業生の少年が三人の先生を殺傷した。
悲しいさびしい事件だ。
卒業生がやってくる。
先生が、よー!と迎える。
こういう情景を思い浮かべるのが普通だろう。
もちろん、そうは行かないこともある。
私は、高校のとき美術部だった。
絵を描くときは、汚れてもいいように「お絵描き着」に着替える。
しかし、高校生はアホだ。
汚れているほうがカンロクがあると思うようになる。
汚れているほうが「画家」みたいで格好がいい!
わざと汚す。
私たちは、絵の具だらけ油だらけの大変汚い格好で、市電に乗ってスケッチに行ったりした。
スケッチの途中で、美術部の先輩のNさんの歯科医院を訪ねたことがある。
Nさんは、高校に来ては、私たちによくギョーザを食べに連れて行ってくれる気前のいい先輩だった。
いつもどおりのきったならしい格好でスケッチに出たS君と私は、三越の向かいの立派なビルの二階の歯科医院に入った。
ぴかぴかの診察室で治療中のNさんは、突然訪問したきったならしい後輩をにこやかに迎えてはくれなかった。
まるで歯槽膿漏を見るような目で歯槽膿漏のような私たちをにらんだ。
「屋上でスケッチでもしとけ!」
私たちはすごすごと屋上に上がってスケッチをした。
それにもこりず、きったならしい格好で歩いた。
先輩のYさんとスケッチに行ったときのことだ。
二人は、きたなさを競い合っていた。
甲乙つけがたいきたなさであった。
Yさんが、中学校に寄ろう、と言った。
Yさんと私は同じ中学だった。
卒業以来初めての訪問であった。
校舎に入ったとたん、廊下をパタパタッと急ぐ足音が聞こえた。
現れたのは技術家庭科のT先生だった。
一年間習っただけで、特に印象に残る先生ではなかったが、懐かしさみたいなものを感じ始めたとき、先生は大声で言った。
「キミたち!なんですか!なんか用ですか!」
先生は大変な剣幕で、まるで汚いものでも見るような目つきで汚い私たちをにらんだ。
Yさんは、後ずさりしながら、「イヤ、ボ、ボクたち、そ、卒業生なんです」と言った。
先生は、相変わらずの剣幕で、「卒業生!?卒業生がなんの用ですか!?」と言った。
私たちはすごすごと母校をあとにしたのであった。
母校訪問のさびしい思い出だ。