朝日新聞スポーツ欄。
三月に行われる「琵琶湖毎日マラソン」の記事。
話題の出場選手は、アテネオリンピックで、沿道から飛び出した男の妨害を受けながら三位になったブラジルのデリマ選手、そして日本歴代二位の記録を持つ藤田選手だ。
それは良いのであるが、見出しと記事の書き方には首をかしげる。
大きな見出し。
「デリマ、藤田出場:アテネの悪夢:警備ピリピリ」
記事本文。
「デリマ選手が三月六日に行われる琵琶湖毎日マラソンに出場することになり、主催者側は警備強化の準備を始めた」
この書き方では、デリマ選手本人が悪夢の元凶、悪夢の正体、悪夢そのもの、という感じがするではないか。
スポーツ新聞なら赤や黄色の大見出しだ。
「アテネの悪夢デリマ来襲!」
「警備陣の強化に不敵な笑み!」
「デリマ、滋賀県警に挑戦状!」
「オレを誰だと思ってるんだ!このレースをめちゃくちゃにしてやるぜっ!」
デリマ選手と、日本側警備陣の対決という雰囲気だ。
デリマ選手にとってはアテネオリンピック以来初レースということで、「海外メディアも注目している」そうだ。
何に?
朝日新聞も「海外メディア」もちょっとおかしいのではないか。
朝日新聞の書き方は「愉快犯」を思わせる。
「アテネの悪夢」の再現を期待しているとしか思えない。
期待ないしは予告、あるいはあおっているのか。
この書き方から見て、この記者は、当日他に誰も飛び出さなかったら自分で飛び出すつもりだ。
デリマ選手も、アテネの記憶も生々しいこととて、スタート直後から心配だろう。
5キロ、10キロ、誰かが飛び出すのではないか。
15キロ、20キロ。
いや、まだだ、
早く飛び出すと後半ばてる。
勝負は30キロ過ぎだ。
35キロ!
誰も飛び出さないのか!
と思った瞬間、沿道から朝日の記者が飛び出してくる。
隠忍自重、我慢に我慢を重ねてこのときを待っていたデリマ選手は、喜びを抑えきれず記者に飛びつく。
抱きあって喜ぶ二人はサンバを踊り始める。
沿道を埋めた観衆も踊りの輪に加わる。
相次ぐ不祥事で人気急落の「紅白歌合戦」、去年は「マツケンサンバ」が目玉であったが、今年はデリマ選手と朝日の記者の「マラソンサンバ」に決定だ。