若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

『まがたま模様の落書き』

本屋に寄ったら、だいぶ前に頼んだ本が来ていた。
奈良に引っ越してからは、会社の帰りに、駅の高架下の小さな本屋で注文する。

東大阪に住んでいた頃は、約二十年間、ショッピングセンターにある中くらいの本屋で買っていた。
好感の持てる本屋さんだった。
なぜ好感が持てたかというと、いつ頃からか、おまけしてくれるようになったからだ。
夫婦二人でやっていて、奥さんはまけてくれないが、主人がレジにいると、1450円の本が、1400円になる。
好感が持てるではないか。

高架下の本屋で買うようになって驚いたのは、頼んだ本がなかなか来ないことだった。私と同じ年恰好のとぼけた感じのオヤジが申し訳なさそうに、「本なんてなー、読みたいときに来んと、気ィ抜けますわなー」と気の毒がってくれた。

いつも遅いので、ここで買うのをやめようかと思ったこともあったが、そのうち、忘れた頃に本が来るのが楽しく感じられるようになった。
思いがけないプレゼント、という感じだ。

そしてそのうち、本を注文したことをまったく忘れるようになった。
頼んだ本が来ないうちに、次々に注文すると、はじめに頼んだ本のことなど完全に忘れてしまう。
「これ、来ました」と言われて、あー、と思い出す。

本を見せられても思い出せないこともあった。
「こんな本頼んでないよ」
「い、いや、これはおたくでっせ」と、注文帳を見せた。

十数年間、私は名乗ったこともなく、オヤジも聞きもしない。「注文主」のところになんと書いてあるのか、私は好奇心むき出しでのぞき込んだ。

そこには、「バンドの男性」と書いてあった。

「バンドの男性」とは?
私は今でもエレキギター雑誌を毎月買っているが、十数年前、この本屋に通い始めた頃は、『バンドやろうぜ』という雑誌を買っていたのだ。
それで私が「バンドの男性」となったものと思われる。

「バンドの男性」が注文したのなら仕方がない。読みましょう。
もちろん、オヤジの勘違いということもあって、危うく頼みもしない本を買わされそうになったこともある。

一度私の注文にオヤジが驚いたことがある。
徹子の部屋」で取り上げた、山田風太郎さんの『人間臨終図鑑』を、放送の次の日に注文した時だ。
書名を書いた紙を見て、オヤジはボーゼンとした顔で私を見つめて言った。

「こ、この本・・・今日・・・お宅で四人目でっせ」