若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

歯医者さん

久しぶりに歯を抜いた。
子供の頃、近所のおばさんに、「きれいな歯やねー!」と言われて以来歯には自信があって、いつもむき出しにして見せびらかしている。

私の幼い頃のおぼろげな古い記憶のひとつに歯医者での光景がある。
駅前の歯科医院で治療を受けていた私が、痛くて泣いた。
私が泣き出したとたん、母と待っていた妹がお医者さんに突進してパンパンたたいた。
今の妹ならお医者さんはぶちのめされているところだ。

小学生の頃、近所の同級生の女の子の家が突然歯科医院になった。
今から思うと、おじさんが「入れ歯を作る人」だったので、もぐり営業みたいなものだったのだろう。
グラグラする歯を抜いてもらいに行ったことがある。
時々私たちが遊んでいた部屋に、ドンと治療用のイスがあるのが子供心にもヘンな感じがした。

おじさんが抜いたのか、お医者さんがいたのか覚えていない。
帰りがけ、おじさんがニコニコと、「はい、おみやげ」と言ってちり紙に包んだものをくれた。この時の優しそうなおじさんの笑顔を今も覚えている。

チョコレートかキャラメルか!?
飛んで帰って包みを開けると私の歯だった。
私の人生で最も落胆した瞬間だ。
おじさんが卑劣な凶悪犯に思えた。

中学生くらいから、W歯科医院にしばらくお世話になった。
ここは、ずっと先生一人だけだった。
よほど評判が悪かったのか、いつもすいていて、行くとよく先生が受付で居眠りしていた。

この二十年ほどはS歯科医院で、この先生は我が家が米を買っていた米屋さんの息子さんだ。
先生の姉さんと私の妹が同級生で、その人は私の高校の同級生と結婚しているという、実に複雑な関係である。

今回行ったら、前のカルテが残っていないと言われたから本当に久しぶりだ。
私の友人が歯科大の教授をしているので、先生に歯科大当時の話を聞いたりした。
話し好きの先生だ。
最近の国家試験は昔よりずいぶん厳しくなっているそうだ。
それでもふつうの医師の国家試験に比べると、歯科医師の国家試験は楽な方だと言われた。

「何が違うんですか」
「ふつうの医者の国家試験は、落ちると一年待たんとダメですけど、歯医者は一度落ちてもすぐまた受けられるんです。
これがほんとの敗者復活戦です」
「えーかげんにしなさい!」
「ほんとにネッ!」