若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

S君の個展を見に行った

高校の美術部のときの友人である。
東京芸術大学を出て、今は国立大学の教授だというと、偉い人だと思う人もいるだろうと思う。

彼は「元天才」だ。
初めて彼が絵を描くのを見て、うまいな!我々とはレベルが違うと思った。

彼の家に行って子供時代に描いた絵を見せられて、天才だと思った。
小学生ですでに立派な油絵を描いていた。

素晴らしいデッサン力を持っていて、なんでも苦もなく描いてしまう。
私が描くと何でもへんてこになってしまうのと大変な違いであった。
二人でよくスケッチに歩いたが、大阪港で私が描いたへんてこな船を見てS君は、「どうしたらそんな風に描けるんや!?」と感嘆した。

お互い自分にないものを認めて尊敬しあっていたといえる。

芸大を受験するために描いていた水彩画などは素晴らしいものだと思えたが、彼は二浪した。
美術の先生に、なぜS君が落ちるんでしょうかと聞いたら、「うますぎるのだろう」というわけのわからん答であった。

絵はうまかったが将棋はヘタだった。
大学のとき彼の下宿に行ったら将棋をしようという。
私は、小学校の頃したくらいで駒の動かし方を知っているという程度だ。
気が進まなかったが対戦して驚いた。
弱いというレベルではなかった。
私が曲がりなりにも彼の王様を取りにいっているのに、彼は全然関係ない駒を動かすのだから何度してもあっけなく勝負がついてしまう。

将棋も弱かったが漢字にも弱かった。
高校の時彼が、「井伏タルジの本を読んだ」と言ったのには耳を疑った。
「鱒」と「樽」の区別がついていない。

大学のとき手紙のやり取りをしたが、誤字が多いのでそのつど指摘してやった。
度重なるので、辞書をひきながら書けと言ってやったら、「ぼくの手紙を読んで誤字が多いとか、辞書をひけとか言うのは君と親父だけです」と書いてきた。

S君はこの三十年ほど毎年二、三度個展を開いている。
苦労せず描けるから量産できるのだ。
こうなると、苦労せず描けるというのも困ったものだ。
絵を見ても、気合が入っていないように思える。
私は、何度も気合を入れて描けと忠告したが彼は笑っていた。
誤字を指摘するようなわけにはいかないので難しい。

今回の作品を見ると、私が言ってきたことが少しはわかってきたように思った。
そう言ったら、相変わらず笑っていた。