昨日は大阪でも奈良でも激しく雪が降った。
大きな雪だなと思ってると小さくなったり、白いと思ってたら透明に近くなったり、「各種雪見本展示会」みたいな降り方であった。
春になりかかってから冷えこむのを「冴え返る」というらしい。
大学のとき買った国文学の雑誌『解釈と鑑賞』に書いてあった。
なぜそんな雑誌を買ったのか忘れた。
当時から、面白くなさそうな本を読むクセがあったのかもしれない。
例文として謡曲の一節があげてあった。
「頃は如月末つ方 春とは言えど冴え返り」
他は何も覚えていないから、当時から私の脳は断片的に働いていたのだろう、と考えていたら、別の断片を思い出した。
これは同じ頃古本屋で買った中世英文学の本に出ていた詩だ。
面白くなさそうな本を読んでいるのに感心する。
「無名氏」作のバラッドである。
馬に乗った若者が、美しい乙女に出会うという設定だ。
「ある日私が馬に乗り
遊び歩いておりますと
緑の森のかなたから
歌が聞こえてきたのです
若葉は森にあふれても
私は恋に悩まされ
ああ眠られぬ眠られぬ
まあほがらかなお嬢さん
あなたはどうしてそんなにも
歌を歌っていなさるか」
この女性は、浮気な男と恋仲になったのだ。
「それがまたもや気が変わり
なんとしてでも今度こそ
思い知らしてやりたいわ
若葉は森にあふれても
私は恋に悩まされ
ああ眠られぬ眠られぬ」
結構覚えている。
こういうのが好きなんでしょうな。
面白くなさそうでも、何か覚えているだけましだ。
『プラトン』という分厚い本はほとんど読みもせず何も覚えていないが、横浜伊勢崎町の古本屋に売りに行ったときのことは覚えている。
古本屋への道を歩いていると、突然慈母のような看護婦さんが現れて、「献血お願いします」と言った。
献血についてはまったく知らず、する気もなかったが、慈母看護婦さんにぐらっときてしまった。
どれくらい取るんですかと聞いたら200ccだと言う。
牛乳ビン一本!
驚いてどうしようかと迷う私に、看護婦さんはやさしく言った。
「毎月これくらい抜くほうが健康にいいんですよ。女性の方が長生きでしょ」
そ、そうだったのか!
感心した私は、それ以来、趣味は献血というくらい献血した。
今にして思えば、詐欺商法に引っかかったみたいなものだ。