若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

ロシア軍人捕虜の妻の日記

ソフィア・フォンタイル著『日露戦争下の日本』

夫が日本軍の捕虜になって四国の収容所にいるという知らせを受けたソフィアさんは、即座に女中を一人連れてペテルブルグをたちアメリカに渡り太平洋航路で日本に到着、夫が厚遇されていることに感激して日本赤十字社に三千円寄付したというのだから、とんでもない金持ちだ。

この人はイギリスに「領地」があり、ローマに別荘がある。この日記も数ヶ国語で書いている。
伯爵夫人である。
セレブ?リッチ?お下がりなさい!
ちゃきちゃきの(?)「貴族」ですよ。

それにしてもソフィアさんは大胆だ。
激しく交戦中の敵国日本へ乗り込むとは。二〇三高地はまだだし日本海海戦もまだである。
総力戦になる前の、戦争が少しはマシだった時代なればこそだ。
ソフィアさんにはカネもあったが勇気もあったし、なんと言っても愛があったんでしょうな。

日露戦争のときのロシア人捕虜の扱いに関しては「表彰状モノ」であったようだ。西洋人に笑われないようにしようと政府も国民も一生懸命だったのだろう。

実際、笑われていたのだ。
ソフィアさんは二十年ほど前にも日本に滞在していた。
そのとき、日本軍の訓練の様子を見て、「自分では軍隊のつもりだろうが、漫画のような」姿を見て苦しくなるまで笑いころげたことがある。

笑いものにならないよう官民一致努力した甲斐あって、今回はソフィアさんもほめちぎってくれている。このときの日本を誇らしいと言う人もいるが、涙ぐましいと思う。

たとえば食事。
ジュネーブ条約を守るだけなら、ロシア人捕虜に日本の軍隊と同じ食事を与えればよいのだが、わざわざパン、肉などを用意したのである。
ムリしましたな〜。
ミエはりましたな〜。

食事と言えば、日露漬物論争。
陥落した旅順から、ロシア軍の備蓄食料のキャベツの漬物が松山に送られてきた。
日本人はそのくささに驚くのだが、ソフィアさんは、あのくさい大根の漬物を食べる日本人がなぜキャベツがくさいと言うのかと不思議がっている。

桜を見に行ったソフィアさんが、花の白さを不思議がる。
もっとピンクだと思ったのだ。
いっしょにいた日本人女性が答える。
満州で流された血に、桜は色を失って蒼白になっているのです」

ソフィアさんは思わず涙を流す。
なんという繊細な人たち!

こういう本を読むといい気になります。