若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

一見さん

フォーク歌手のなぎら健壱さんが、朝日新聞で怒っている。

以前友人と行った飲み屋の話だ。
はじめての店だったが、入るなり女将に嫌な顔をされた。
注文の料理を持ってくるときも嫌な顔だった。

後から来るネクタイを締めたサラリーマン風のなじみ客には、「いらっしゃい!」「おつかれさま!」と大変に愛想が良い。
客がこんできたと思ったら、席を移れといわれて隅っこに追いやられた。
隅っこで飲んでいたら、どんどん客が来て、今度は厨房の脇の冷蔵庫の前に椅子を出されてそこで飲むはめになった。

「客は全員ネクタイである」
「よほどネクタイ族がすきなのか」
なぎらさんはネクタイ族が嫌いなのか。

そんな目にあったのなら出ればいいと思うが、不愉快に思いながらずっと飲み続けていたというのが不思議である。

「後日その店の前を通ったら店は消えてなくなっていた。ざま〜みろ」

ひどい仕打ちを受けた店がつぶれていい気味だと言いたいようだが、それはおかしい。
なぎらさんの気持ちはわかる。

オレを粗末にあつかった店がつぶれた!
ざま〜みろ!

しかし、一見の客をあからさまに粗末にするほど常連客の多い店なのである。
なぎらさんには気の毒なことであったが、次々と来る常連客には愛想を振りまき大事にしているのである。

新しい客をちやほやして、常連には甘えてほったらかしというのではない。常連客の支持は絶大であろう。

この店はつぶれて消えてなくなったのではない。
この店で一日の疲れをいやし、明日への活力を回復した客たちは大いに活躍して出世街道を驀進した。

ヒラから係長、係長から課長、課長から部長、常務専務副社長社長副会長会長相談役。
常連のサラリーマンたちが出世するとともに、彼らのステータスにふさわしい店にすべく、女将が勝負に出たのである。

銀座か六本木か知らんが一等地に移り、いまやなぎらさんが入る気にもならないような高級な店になっているのだ。
ざま〜みろ!と言っているのは女将だ。

もちろん堂々と、「会員制・一見さんお断り」