若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「ジュラボンさん」と「シルバーさん」

突然「ジュラボンさん」を思い出した。

バカボンとは関係のない人だ。
高校生の頃、我が家で時々名前が出た人である。

「ジュラボン」というのは商品名で、「ジュラルミン用のボンド」だ。
ジュラルミンを接着できる画期的な商品だと父が熱心に語るのを聞いたことがある。
その開発者が「ジュラボンさん」だ。

残念ながら画期的商品ではなかったようで、ジュラボンさんの会社は倒産し、その保証をしていた父の会社も倒産した。
私が高校3年生の時で、大学に行けなくなるのかなとぼんやり考えた。

倒産直後、父は何日か家に帰らなかった。
父がいない時、男の声で電話がかかった。

男は名乗らず、「ごくごく内輪の者なんですが」と押し殺したような声で言った。
父はいないと言うと、男はもう一度、「ごくごく内輪の者なんですが」と言った。
それが「ジュラボンさん」だった。

その後、父は一度も「ジュラボンさん」の名前を口にしなかった。
父が死んでから色々整理していたら、画期的商品「ジュラボン」のカタログが出てきた。
古びたカタログだったが、試験データや写真を見る限り、「画期的商品」のように思えた。
父の字でこまごまと書き込みがしてあった。
この新商品に相当期待していたようだ。

「ジュラボンさん」のついでに、「シルバーさん」も思い出した。
こっちはもっと古い。
私の中学の頃だと思う。
やはり我が家でよく名前の出た人だが、どんな人かまったく知らない。

いつの間にか聞かなくなった。
何年も後のある朝、母が、シルバーさんを覚えているかと聞いた。
そういえばそんな人がいたなと思った。
覚えていると答えると、新聞を見せた。

猟銃自殺の記事だった。
母は、それが「シルバーさん」だと言った。
もちろん、「シルバーさん自殺」と書いてあったわけではない。

「ジュラボンさん」と「シルバーさん」

不安をかきたてられる名前だ。
世の中というのは恐ろしそうだと私を脅かした二人である。