朝日新聞朝刊。
法隆寺などから仏像十八体を盗んだ男の記事がでていた。
この男が逮捕されたとき、趣味で集めているのか、売って金を稼ぐのだろうと思った。
検察側の起訴状によればちがうようだ。
この男は数年前からうつ病に悩んでいた。
なんとかうつ病から助かりたいものと、奈良県桜井市の寺で、十一面観音の前で祈っていたとき、「有名寺院から三十三体の仏像を盗みだせ。そうすれば苦しみから救われるであろう」というお告げが聞こえたというのである。
検察側がいうんだから、そうなんでしょう。
お告げを信じて仏像を盗むのは窃盗であろうか。
酔払い運転で人を死なせても殺人罪でないなら、こっちも窃盗ではなさそうだ。
しかし、いくらお告げであっても、文化財を盗んだのなら窃盗だ。
が、この男はネウチのある文化財を盗んだのではない。
霊験あらたかな仏像を盗んだのだ。
罰当たりな男というべきであろうか。
あるいは、仏像の霊力を信じ法力にすがる最近まれな奇特な男というべきであろうか。
法隆寺をはじめ、仏像を盗まれた各寺院では、この件につき議論が起こっているようだ。
少数ではあるが、この男に感謝状を贈るべきだという意見がある。
それはいきすぎだが、情状酌量して減刑を嘆願するくらいはしてやってもよいのではないかという意見もある。
そのような世俗的なことではなく、あくまで仏教者としての立場から、うつ病平癒の祈願をしてやるのが正しいと説くものもある。
「減刑嘆願」派が優勢であったが、なかなか決着がつかず、法隆寺管主は、この上はと、釈迦三尊像の前で祈った。
「仏様、あの男にどう対処すべきでしょうか」
「ほっとけ」
「え〜かげんにしなさいっ!」
「誰にいうとんじゃっ!」