本屋に注文してあった『風の影』が上下二冊そろった。
下巻だけ先に来ていたのだ。本屋の親父は、「どうします?」と聞いたが、下巻だけ買うわけにはいかんではないか。
これは、世界的大ベストセラーで、朝日新聞書評欄大絶賛の、要注意本だ。
何度かだまされたパターンである。
だまされました。(-_-;)
というか、この小説の世界に入りこめなかった。
冒頭、朝の五時に、父親が十歳の息子に、見せたいものがあるから服を着なさいという。
「朝の五時に?」
「闇の中でしか、見えないものもあるんだよ」
十歳の息子相手に、何をイキがっとるんじゃ。イキがっているだけならまあよろしい。そう言ってから父親が笑いを浮かべる。
「アレクサンドル・デュマの本からでも拝借したような笑みだった」
どんな「笑み」やねん。
知りたかったら、『モンテクリスト伯』を読み返せとでも言うのか。
父親が連れて行ったのは、秘密の、聖なる場所、「忘れられた本の墓場」で、この「忘れられた本の墓場」に入ったところで、私は完全に読む気をなくした。
世界的ベストセラー上下二巻を十ページであきらめるというのはもったいない、上巻の最後はどうなってるかな、と我ながらヘンな読み方をする。
うっ。
女の人が裸になっているようだ。
あわてて前のページを見る。
主人公が、女性を抱きしめている。
「私を誘惑しないで、ダニエル」と彼女はつぶやいた。
ぼくが知る最高の賢者フェルミン・ロメロ・デ・トーレスが、いちど話してくれたことがある。人生で、初めて女性の服を脱がせる経験に比較できるものはないと。
さ、最高の賢者・・・。最高の助兵衛とちやうか。ダニエル君、もうちょっとましな人とつきあったほうがいいのでは?
朝日新聞では池上冬樹氏が、「物語の虜になる楽しみがここにはある。まさに傑作」、読売新聞では逢坂剛氏が、「すべての誠実な読書人におすすめしたい、掛け値なしの傑作である」と書いているのであるが。
「ワシントンポスト」や「フィガロ」など、世界の一流新聞一流雑誌が絶賛しているのであるが。
T君が、『今日はラッキー!』を読む気がしないと言ってきたカタキをとったような気がしてうれしい。