若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

おかあちゃんは今日もパチンコ

小学一年の時の担任の先生について、あまり記憶がないことに気づいたが、同級生のこともほとんど覚えていない。

すぐ名前が浮かんだのは、「金玉蓮ちゃん」という女の子だ。私の心に鮮烈な印象を与えた派手な名前だった。その子は派手な子ではなく、名前を覚えているだけだ。
もう一人は野田くん。
絵を描いて提出する時、彼が書いた名前を見て不思議に思った。
「マア田」と読めた。
「のだくん」なのにどうして「マア田」と書くのかだろうか。
大いなるなぞであった。
彼は「野」という字の左と右を、かなり離して書いていたのだ。私が「野」という漢字を知らなかったおかげで、一年のクラスに野田くんという子がいたことがはっきり記憶に残っている。

名前も顔も覚えていない男の子のことを覚えている。ある日、教室で先生が、その子に言った。きのうその子の家に行ったのに、誰もいなかった。

「おかあちゃん、またパチンコか!?」

これは強烈でしたね。
非常な不安感をおぼえた。
「おかあちゃん」なるものに対する信頼が大きく揺らぐできごとであった。

もう一人、私を不安にさせた「おかあちゃん」がいた。
誰のおかあちゃんか忘れたが、「ヒロポン中毒」だったのだ。

ヒロポン」は、覚せい剤として合法的に販売されていたが、中毒が社会問題になって禁止された薬だ。
覚せい剤は、おおっぴらに持っていてもよかったのだが、法律ができてからは、覚せい剤は早く隠せいざい!ということになったのである。

街の張り紙を覚えている。

ヒロポンは 親泣く子泣く わが身泣く」

ヒロポン」という響きが、なんだかこっけいで、恐ろしいものという気はしなかった。
しかし、誰かのお母さんが、自分でヒロポンの注射を打っていると聞いたとき、その姿を想像してふるえあがった。

三十年ほど前よく聞いたラジオ番組で、「泣き笑い人生」というコーナーがあった。投稿された苦労話を読みあげるのだが、よくこれだけ同じ話ばかりあるなとあきれた。
父親が酒に狂い女に狂いばくちに狂う。
母親がけなげにも苦労を一身に引き受けて子供を育て上げる。

おかあさんありがとう、母親万歳。
男であることがうしろめたくなるほど毎回の母親賛歌だ。

しかし、私は「パチンコの母」「ヒロポンの母」を知っている。
小学一年のときから、おかあさんも要注意だと思っている。