毎朝、会社への道を急ぐ私の前に、いつも一人の男が歩いている。
50歳くらいのサラリーマン風の人だ。
この人を一言で紹介すると、歩き方がどんくさい。
見ていられないとか笑ってしまうと言うほどではないが、もうちょっとマシな歩き方があるのではないかと思う。
ペッタンペッタン、あるいはポクポク歩く。
もう少ししゃんと歩きなさいと言いたい。
大きなお世話であろうか。
歩き方は大事だ。
朝の駅でよく見かける、ある若い女性にも文句をつけたい。
すごくヒールの高い靴をはいて、ポックンポックン歩く。
足の動き、身体の上下動が、階段を上っているかのようである。
高校一年のとき同じクラスだったちょいワル高校生M君は、歩き方にうるさかった。
私に色々アドバイスしてくれたものだ。
かばんはこう持てとか。
人間は、階段を上り下りする姿が一番みっともない、といっていた。
だから、彼はいつも階段を駆け上り駆け下りた。
おのれのみっともない姿をさらしたくないのだ。
駅のお嬢さんは、平地を歩いているのに階段を上るようなかっこうだ。
M君が見たらどれだけ嘆くかと思う。
さて、ペッタンペッタンの男性だ。
今朝も私の前を、ペッタンペッタンと歩いていた。
駅前の神社に向かってまっすぐ歩いて、鳥居の前で左に折れる。
はずなのに、そのまま神社に入って行った。
これはかなりの衝撃であった。
なぜ神社に入るのだ!?
私は左に曲がって、神社に沿って歩いた。
彼は参道をまっすぐ進むと、拝殿の前で深々と頭を下げて、じっと手を合わせていた。
私は、神社の横で彼が出てくるのを待って、いったい何があったのか問い詰めるほどヒマではないので、さっさと歩いた。
帰りに神社に寄って、拝殿で手を合わせ、あの人がなにを祈ったのか神様に聞いてみよう。