朝、バスが駅に近づくと、演説しているらしい声が聞こえてきた。
おなじみ、県会議員のTさんではなさそうだ。
もっと迫力のある声だ。
「まぶちさん」だった。
奈良県選出の民主党の衆議院議員である。
今問題になっている、「格差社会」についてまともに力を込めて訴えていた。
朝の駅で、まともに力を込めて訴えてもしかたがない、と私は思う。
ここはTさんを見習って、「早朝からの御出勤御通学、まことにご苦労様でございます」ていどですませるべきだ。
まあ、それですませないところが、まぶちさんのいいとこなのであって、それですませるのがTさんのいいとこだ。
それぞれの持ち味を出しているのがいいと思いました。
松岡正剛さんの『千夜千冊』が売り切れたそうだ。
す、すごい。
松岡さんが、インターネットで書いていた書評をまとめたものである。
ほとんど毎日、一冊の本を取り上げて批評してある。
書評といっても、毎日、かなりの量の文章である。
それだけでもすごい。
全八巻。
値段が、99750円。
す、すごい。
初版千部売り切れ。
す、すごい。
99750円と聞いて、えらい強気やなあ、ばっかじゃなかろかと思った私がばかでしたネ。
私にとっては、なじみのない人であったが、熱烈なファンがいるようだ。
私が買った本の中で一番高いのは、三十年ほど前に買った、ダリウス・キンゼイ写真集。
高いだけでなく一番重い。
アメリカの巨木をとった写真集である。
神々しいまでの巨木を見ていると、写真集の値段が高いという気はしない。
写真集以外では、田川建三『書物としての新約聖書』で、8400円。
この本を読み終わったとき、最初に浮かんだ感想が、「安い!」ということであったのは、我ながら遺憾である。
しかし、著者の数十年にわたる研究の成果を、私みたいなボーっとした素人にもわかりやすくまとめてくれてあるのだから、「安い!」という他ない。
名著じゃなかった拙著『今日はラッキー!』(「くどい」と思う人がいるだろうが、何度も繰り返すうち、言うほうも聞くほうも、「名著」と思うようになる)は1500円である。
買ってくださった方には悪いが、この1500円という年段はいいかげんにつけた。
980円にしておいたら、お買い得感が出て、13冊どまりということはなく、20冊くらい売れたかもしれんな。