新聞の書籍広告。
『宣伝会議』という雑誌の広告が出ていた。
「特集:現代詐欺師の宣伝ツール一式」
この雑誌は、広告、宣伝に携わる人のための雑誌だろう。
自分達のことを、「現代詐欺師」と開き直っているのだろうか。
ホンモノの詐欺師の手口を学ぼうというのだろうか。
誤解を招きやすい特集だとも言えるし、広告、宣伝マンと詐欺師の類似性、相違性について注意を喚起する特集だとも言える。
テレビのコマーシャルを見ていると、なにを見ても「ウソだ」という気分になる。
車がさっそうと走っているのもウソ、桜が咲いているのもウソ、うまそうにビールを飲んでいてもウソ。
テレビは、「ウソ発生装置」のようなところがある。
テレビで見ると、なんでもウソっぽくなる。
テレビのせいではなく、こっちのトシのせいかもしれない。
十年以上前だが、テレビで「新春映画劇場」を見た。
『ああ野麦峠』
紡績女工の悲惨な話である。
提供は、某百貨店だった。
映画の間にはさまるコマーシャルを、浜村淳さんが担当した。
女工が結核になって、小屋に放り込まれ、「おっかあ!」と泣き崩れるところでCM。
わら敷きの小屋が一転、お正月風にキンキラキンに飾り立てたセット。
結核女工が一転、浜村淳。
「おっかあ!」という涙ながらの悲痛な叫びが一転、おなじみのハッピースマイル満開ハッピーボイス全開、「さあ、みなさまお待ちかね!○○百貨店恒例の初売りでござます!」
悲惨な物語は続く。
男にだまされ妊娠した女工が川に身を投げる。
死体が浮かび上がってくるところで、CM。
ハッピー浜村、にこやかに登場。
「さて、映画のほうはますます盛り上がってまいりましたが、ここで新春お買い得情報!」
浜村さんに罪はない。
罪はないのであるが、私は彼の人間性を疑わざるを得なかった。
結核で、治療も受けさせてもらえず、小屋に放り込まれたんですよ!
なんですか、ニコニコとほがらかに。
飛び込み自殺の死体があがったんですよ!
もりあがってまいりましたはないでしょ。
広告宣伝はつらい。
この場合の浜村さんは、詐欺師というより「人でなし」という感じを私に与えた。
浜村さんは、詐欺師でもなく人でなしでもないのに。
広告宣伝に携わる人は、詐欺師、あるいは人でなしになる必要はないが、そう思われてもかまわないくらいの覚悟は必要だ。