時々、短歌結社の機関誌を読む。
良い歌がないか探さない。
ヘンな歌がないか探す。
いい趣味とはいえない。
しかし、大量の投稿短歌を丹念に読んで、数少ないヘンな歌を見つけ出すのは骨の折れる作業だ。
努力だけは認めてほしい。
「敬老会に撮られし妻の写真見て葬式用にトリミングを考う」
冷たいですね。
一人暮らしの心細さが伝わる歌。
「雨戸打つ風雨に負けじと大声で聖者の行進を真夜に歌ひぬ」
愉快、あるいは鬼気迫る姿である。
大声で歌うならこっちの方がいい。
「辛いとき『月の砂漠』を朗々と歌えばやがて王妃の気分」
本人以外にわかりにくい歌も多い。
「無言清掃の話を誰かが持ち出して拡げむなどとはアブナイアブナイ」
「勘亭流の入り口横目で見て通る細身貧弱で読めぬ恥あり」
ネコを飼ったことがないのでこの歌もわかりにくい。
「八ミリの真珠粒ほどのバタを舐め老猫の便通は今日も快調」
バタでなく、自然をなめている人もいる。
「犬小屋も庭のテーブルも覆ひかけ準備万端さあ来い台風」
居直っている人。
「モーツアルトを知らぬといへば身の恥かわれらは軍歌を聞きて育ちし」
いつまでも軍歌のせいにしてはいけませんね。
60年はたってます。
税の申告書を書くのに苦労してる人。
「何ページもの参照は無くして欲しいもの同じページに書けないものか」
退職女教師の会合の役員をしてる人がぼやいてる。
「また夜遅く電話のありて一人減る役員などはなるものでなし」
どんな小さな集まりでも、参加者は世話役の苦労を考えてほしいものだ。
「会食の約束破られ四人分のワンタンスープを飲まねばならぬ」
老境に入った夫婦の厳しい現実。
「部屋すみより携帯ラジオの笑い声私は眠りたいあと三十分」
「残りても家政婦頼めば困らぬと言ひたる夫の心寂しむ」
珍しく、順調な人生を歌う連作。
「叔父の始めし砂採取より土建業へと会社は時代の波に乗りたり」
「普及前をダンプカーの免許取得し土砂も運びしと夫若かり」
「七十歳を期に引退を決めをりしと夫鮮やかに会社を退きぬ」
めでたしめでたしで面白くない。
やっぱりこっちだ。
「工事費二百万円振り込み下さる筈なりき支払機は今日も『未記帳はなし』」
締めは、大胆な破調、字あまりの歌。
「脳のCT写真を見るや医師は告ぐこれはいかんすぐ大病院にて手術を受けよ」