若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

入門

高校の美術部時代の友人S君と飲む。

彼は、子供のころから、見事なデッサン力と色彩感覚で、素晴らしい絵を描いており、天才少年として、自他共に認める存在だったのだが、高校で私の絵を見て衝撃を受け、上には上があるものだと、すっかり自信喪失したまま今日に至っているのではないかと、私としては気にしているのであるが、本人は、この件に関して、かたく口を閉ざして語ろうとしない。
高校卒業後、私から逃げるように、東京芸術大学に入ったことが、傷の大きさを物語っていると言えるかもしれない。

現在は、某国立大学教授で、関西美術教育界のドンとして、にらみをきかせているのか、関西美術教育界の困ったさんとしてにらまれているのか、本人はかたく口を閉ざして語ろうとしない。
昔から、自分に都合の悪いことは言わない男だ。

私が仕事をやめたことに、少し驚いていた。

「仕事やめて、どうするんや」
「これで、やっとあんたと同じ身分になれたわ」
「ボクと同じ身分?」
「カネの心配せずに、気楽に自分の好きなことだけしてたらいい」

「アホなことを言うな!」
図星を指されて、カンカンになって反論した。
いかに自分が忙しいか、いかに教育に熱心か、職務以外にいろんな人の相談にのって、一銭にもならない、ボランティアのような活動をしているか、まくしたてた。

これは、すべてほんとうである。

だから、キミは定年退職者の星なのである。
国からカネをもらって、好きなことをしながらボランティアに励む。
人もうらやむ身分である。
キミは、大学奉職以来、二十代からず〜〜〜っと、理想の退職者のような生き方をしてきたのだ。
うらやましい。

こう言ったら、しぶしぶ納得していた。

本題に入る。
私は、S君に入門申し入れに行ったのである。
油絵の描き方を教えてほしい。

先日、電話で頼んだときと同様、言を左右にしてウンと言わない。
私は、彼のことを「良い先生」と思っているのだが、彼は私のことを「タチの良くない生徒」と思っているようだ。

三拝九拝、土下座せんばかりに頼み込んだら、半ばやけくそのように、「よっしゃ!教えたるわ!」

彼が良い先生か、はたまた、私が悪い生徒か、明らかになるときがくるであろう。