二十年ほど前、関西の有名百貨店に勤めている若者と話をしたことがある。
老舗百貨店には、独自の「商売観」というものがあるのではないかと思った。
「これが商売の基本だ!」というようなことを教えられたか聞いてみた。
「『仕入先を泣かすことや!』と習いました」
シンプルである。
「仕入先を泣かす」ことにかけては、A社長(特に名を秘す)の右に出る人は少ないだろう。
私が仕事をしだしてすぐ知った人で、すでに超優良企業で、利益をあげつづけていた。
ひと言で言うと、「えげつない人」ということになるだろう。
ご本人は、「ワシを、えげつないと言うやつがおるけど、それはちがう。ワシは、きびしいんや。まちがってもらっては困る」と言っていた。
若さのせいか、A社長を知った当時、私は特にえげつなさを感じはしなかった。
周囲の人達は口々に言っていた。
「従業員や仕入先を泣かせて利益をあげているだけだ。あんなやり方が、長続きするはずがない」
おりこうちゃんだった私は、それは、はかない願望に過ぎないと思った。
このやり方は長続きする!
で、長続きしてます。
その社長の、朝礼での発言が業界を駆け巡った時も、私は驚かなかった。
社員を前にこう言ったそうだ。
「キミたちは、仕事を終えて帰るとき、立って歩いてる。クタクタになって、帰るときは、立って歩けないほど働いてもらいたい」
この発言に驚かなかった私であるが、社長と話をしていたとき、驚かされたことがある。
「この業界で、ワシほど社員のことを考えてる経営者はおらんやろ」
冗談かと思ったが、まじめのようであった。
返事につまってしまった。
返事に困った時の私の得意技、菩薩の微笑でごまかした。
人間て、恐ろしいです。
おたがい、気をつけましょう。