人物画教室。
二人めのモデルさんである。
先生が、高いスツールに、ヘンな格好で座らせる。
絵の勉強のためだから、楽な恰好では座らせない。
そんなヘンな格好で二十分間座ってるモデルさんも大変だし、描くほうも大変だ。
今日で四回目なので、かなり仕上がってきた。
仕上がってきたなと思いつつ描いてたら、先生がまわってきた。
「ひざが、おかしいでんな」
先生は完全な大阪弁だ。
「こっちのひざと、こっちのひざの関係がどうなっとるんかね」
そういわれて、あらためて見直すと、たしかにおかしい。
「そのへんを、よう考えて描かんとね。スカートの中に足があるんやからね。その点、ヌードは楽ですけどな」
なるほど。
それで裸を描くのか、と納得。
今さら、とも思ったが、どう見てもヘンなので、足を描きなおすことにした。
かなりマシになったが、いすに座ってる感じがしない。
神戸から来てるという男性が見に来た。
「どうですか」
「う〜ん、座ってる感じが出ませんワ。苦労しますね」
「そうやね、苦労するなあ。あ!今、梅田でやってる映画見たらええわ。レンブラントの映画。いやあ、レンブラントも苦労しとるよ」
「レ、レ、レンブラントも!?」
「・・・レンブラントといっしょにしたらいかんか。あはは」
自画像は、5枚できた。
5枚並べたのを見て、同じ人間が同じ人間を描いたとは思えないところがつらい。
あと、家内と娘たちの肖像が一枚ずつ。
娘たちは、これが最初で最後だろう。
座ってくれそうにない。
家内は、拝み倒せば、またすわってくれるかもしれないが、注文が多くて困る。
「もっと目を大きく」
「まつげを長く」
「首を細く」
「色を白く」
いうとおりに描きなおしてたら、とてもヘンテコな絵になった。
こんな口うるさいモデルはいないだろう。
できあがった家内の肖像を見て驚いた。
無意識のうちに、口をチャックに描いてた。