同総会では、懐かしさがこみ上げるような場面はなかった。
「こんなことあったなあ」
「あったあった!」
「ふたりでこんなことしたよなあ」
「そうそう!」
これでこそ盛り上がるが、そうはならない。
「こんなことあったなあ」
「おぼえてない」
「こんなことしたなあ」
「忘れた」
「おぼえてない」「忘れた」の連発である。
おぼえてない、忘れたと言い合うために集まったような感じだ。
話のかみ合わなさに、母が入居していた要介護老人施設を思い出した。
私と同じ学年のN君が、やはり同じ学年のH君を指して、「あれ、誰?」と聞いたのには驚いた。
「Hだよ」と言ったら、「全然記憶にない」と言う。
二人は、共に長野出身だ。
最後まで思い出せないようだった。
だいじょうぶかな。
N君以上というか、以下というべきか、あきれたのは二年先輩のAさんだ。
Aさんは、バンドのドラマーとしても活躍していた。
かなり大きなコンテストで入賞したバンドで、大学祭などでは人気であった。
バンドの話を聞いたが、大学外でも引っ張りだこだったようだ。
練習はどこでしていたのかと聞いたら、Aさんの自宅が多かったそうだ。
「自宅でバンド練習ですか。ドラムもアンプも使って?」
「そうだよ」
「近所迷惑ですね」
「お蔭で今でもお隣さんとはギクシャクしてますよ」
四十数年前のバンド練習が、いまだに尾を引いているのか。
しみじみしますね。
Aさんが、テーブルに置かれた古い集合写真を見て首をひねっている。
展覧会や飲み会のとき写した写真だ。
名前が浮かばないようだ。
「これ、誰?」
「Sですね」
「あー、S君か。これは?」
「Kさんです」
「あー彼女ね」
「これは誰?」
次にAさんが指差した人物を見て、私は、ふざけてるのだと思ってAさんの顔をじっと見た。
Aさんは真顔だった。
黙っている私を見上げて、「これ、誰?」
「・・・Aさんですよ」
「オレ?!?!?!」
Aさんは、素っ頓狂な声を上げた。
「・・・これ・・・オレじゃないよ!」
「い、いや、Aさんです」
「ええ〜〜っ!これ、オレ?!?!?!・・・」
これがホントの我を忘れて茫然自失ですね。