乗馬クラブで初心者が乗る馬は、「高齢馬」だ。
経験豊かで暴れる可能性が少ない、というより、暴れる元気がないといったほうがいいのか。
以前、「アンドル」という馬に乗った。
何歳だったか忘れたが、かなりの「高齢馬」だった。
インストラクターが、「アンドルじいさんと呼んでやってください」といった。
呼べません!
呼びたくない。
「じいさん」に乗ってるなどと思いたくない。
救いは、外見では馬のトシがわからないことだ。
見る人が見ればわかるのかもしれないが、私にはわからない。
どの馬もきれいな毛並みだと思う。
これが、人間並みに、白髪だったり、はげてたりしたら、乗ってられませんよ。
女性会員で、馬が大好きという人がいる。
私は、いまだに馬の顔を覚えられないが、彼女達は、歩いてくる馬を見て、「○○ちゃ〜ん」と声をかけたりする。
りんごや人参を持ってくる人もいる。
大きなりんごをたくさん持ってきて、切っては、馬にやりに行く。
さっきりんごをやりに行ったなと思ったら、別の馬には人参を切って食べさせている。
「あの子はね、人参の方が好きなんですよ」
馬にも好みはあるんですね。
中年女性が、インストラクターに質問。
「ドナルドちゃん(仮名)、最近見ませんね」
ドナルドというのは、私がここで初めて乗った馬だ。
年を聞いて驚いた馬だ。
初心者用は高齢馬というのを知った馬だ。
私は、いなくなったことに気づいてなかった。
インストラクターが答えた。
「引退しました」
女性が驚いたように叫んだ。
「引退!?」
「引退です!高齢のため引退しました!」
余計なことを考えなさんな、という雰囲気をかすかに感じた。
女性は黙り込んでしまった。
インストラクターは力強く繰り返した。
「引退です!」