今年の目標は、肖像画を描きまくることであった。
去年の個展の時、来ていただいた方に、片っ端から声をかけて、モデルになってくださいと、頼みまくった。
おかげさまで、7人の方から快諾かどうかは知らんが、まあ、引き受けていただいた。
さあ!年が明けたら、花ちゃんがいなくなったさびしさを吹っ飛ばすほどの勢いで描きまくるぞ!と張り切っていたのに、そうもいかなくなった。
高齢化社会の真っ只中、気楽に絵を描いてるわけにも行かない家庭の事情である。
とはいうものの、描きたい。
他人様に声をかけてというのはちょっとアレだけど、身近なところで、長女のおむこさんをモデルに描き初めくらいは、と思っていたら、なんと、彼がぎっくり腰になってしまった。
すわっているのもつらいとのことで、しかたなく、寝ているところを描くことにした。
長女のおむこさんが、布団に寝そべっている前にイーゼルを立てる。
寝ている姿を描くのは、美術の世界では、珍しいことではない。
珍しいことではないどころか、古来、「釈迦涅槃図」とか、「着衣のマハ」とか、数々の傑作がある。
数々の傑作はあるけれど、長女のおむこさんが寝そべっている姿を見ると、「釈迦涅槃図」のような、荘厳、厳粛な空気が漂っているわけでもなく、「着衣のマハ」のような、しどけない色気もなにもあったもんじゃなく、まあ、ただ単にぎっくり腰の男が寝てるというだけの話である。
これは絵にならん、ぎっくり腰が治ってからにしようといったら、「お義父さん、絵にならんのを絵にするのが、絵描きのウデじゃないんですか」と、寝そべったまま挑発的なことを言う。
ふつうに言われてもカチンとくるせりふだが、寝そべったまま言われて余計にカチンときた。
おー!描いてやろうじゃね〜の、と筆を取って驚いた。
難しい。
眉毛はふつう横にならべて描く。
ところが、タテにならべて描かなければならない。
目も、ふつう、横のところをタテにならべて描く。
眉毛や目をタテに描いたのは初めてである。
鼻は、ふつうタテに描くが、横になる。
鼻の穴も、横に並べるところを、タテにならべる。
耳も、ふつう顔の左右に描くのに、顔の上下に描く。
いかに肖像画の名手(注:私のことです)と言えど勝手がちがう。
ここは頭を下げて、ぎっくり腰が治ってからということにしてもらった。