散髪に行く。
この店とは、親戚とか友達以外では一番古い付き合いではなかろうか。
三十年以上通ってます。
主人は70前で、客は来てもいいし来なくてもいいという雰囲気濃厚である。
奥さんは、立ち仕事がかなりつらくなってるようで、客は来ないほうがいいという雰囲気濃厚である。
その雰囲気を察してか客は減ってます。
私も、ひょっとすると迷惑がられてるのじゃないかと心配になるときもある。
この店が混んでいて待たされた時期もあるので、平日朝早い時間に行く。
ここ数年待たされることはないです。
待たされることはないのに、クセになって朝早く行く。
来られるほうは迷惑かもしれない。
迷惑をかえりみず行く。
主人が大工仕事をしてたり、奥さんが何か家の用事をしてたりということが多い。
ドアを開けて入っていくと、店の奥から、主人か奥さんが「朝早くから誰じゃ!?」という顔で出てくる。
なんだか邪魔をして悪いような気がする。
今日ドアを開けて入ったら、主人が鏡に向かってテルテル坊主みたいな恰好で立っていた。
何をしてるのかと思ったら、バリカンで自分の頭を刈っていたのだった。
セルフ散髪の邪魔をして悪かったという気になる。
主人は、「いらっしゃいませ!」という雰囲気ではない。
しゃ〜ないから仕事をしようかという雰囲気である。
これが健全なのであって、お客様は神様です!熱烈歓迎!というのは不健全であるという気もする。
おもてなしの心というのはいかがわしいのではないかと思える。
三十年ほど前、主人がやる気満々で、表通りの広い店の一角に喫茶コーナーを設けて、待ってる客にコーヒーサービスなど始めた時はなんだか落ち着かなかった。
当時と比べると、主人も私もかなり落ち着きましたね。