著者のフランコ・サケッティは、14世紀フィレンツェの商人ということです。
著者自身による序文でこんなことを語っています。
伝染病、事故、内乱、戦争などによって悲惨な目にあった人をたくさん見てきた。
みじめな人生を耐え忍んで生きていくうえで、おもしろい話、珍しい話はなぐさめになるのではなかろうか。
で、彼が見聞きしたできごとに創作を織り交ぜて書き上げたのがこの本です。
いろんな珍談奇談の寄せ集めですね。
アルドブランディノ侯という殿様が自分の利益のためにある男に裏切り行為をさせた。
めでたく裏切りは成功した。
殿様はその男にこういったそうです。
「私は裏切りは好きだが、裏切者は嫌いだ。とっとと消え失せろ!二度と顔を見せるな!」
著者はこの殿様は立派だと言ってます。
自分のために裏切りを働いた男をとりたてて、そのうち自分も裏切られたという例が多いからとのことです。
別の話。
ペルジアの町にペトルッチョという男がいた。
日曜ごとに教会に行く。
司祭は献金を集める時、「献金すれば百倍になって戻ってくるのです」と説教した。
ペトルッチョは毎回献金しながら、誰が百倍にして戻してくれるのか気になって司祭に尋ねた。
司祭は献金箱の上の十字架のイエスを指して、この方が百倍にして下さるのじゃと言った。
ペトルッチョは十字架のイエスを見上げて、真面目そうな男だ、この男なら間違いあるまいと思って献金を続けた。
イエスのことを高配当を約束するファンドマネージャーみたいに思ったんですな。
ところがいつになっても百倍になって戻ってこない。
不安になったペトルッチョは司祭の留守に教会に忍び込んで、十字架のイエスに叫んだ。
「ヤイ!いつになったらおれのカネを百倍にして返してくれるんだ。・・・返事もしないとはふてー野郎だ!」
持っていた斧で十字架をぶち倒し、献金箱をたたき割ってカネを持ち去った。
帰ってきた司祭は驚いた。
留守番からペトルッチョの仕業と知って問い詰めた。
「ああ、ワシがやったよ。百倍返してもらうまで、何回でもやるぞ!百倍にならないなら、あんたもあの十字架の男みたいにしてやるぞ!」
司祭はあわててカネを渡し、ペトルッチョに二度と献金しないでくれと頼んだそうです。
いや〜、すごい。
すごいですね。
こんな話が14世紀のイタリアにあるんですね。
こんな話書いて許されたんでしょうか。