C.Vウエッジウッド『オラニエ公ウィレム:オランダ独立の父』を読み終えました。
著者がこの人のことを書きたかった気持ちが分かりました。
えらい人である。
当時のイギリスの外交官が、オラニエ公のことをこう書いてます。
「大きな権威を持ち、だれからも愛され、物事の決断においては賢く、仮面をかぶることのない、稀な人である」
まず、宗教に関して、稀な人であった。
当時は宗教の時代です。
カトリックとプロテスタントが殺しあってた時代です。
オラニエ公は、プロテスタントだったけど、「カトリック教徒はカトリックの教会で祈り、プロテスタントはプロテスタントの教会で祈っておればよろしい」と考えてた。
そう考えただけでも殺されるような時代ですから、えらいもんです。
そして、民主主義の人であった。
著者によれば、オラニエ公は、地位から言っても実力からしても人気からしても、独裁的権力を振える人だったのに、常に議会を優先した。
「私の主君は議会だけである」と言ってたそうです。
独立戦争を戦うにも、「おれについて来い!」とは言わなかった。
いくら手間がかかろうが時間がかかろうが、議会に従った。
えらいです。
こんなえらい人だけど、結婚生活はあまり幸せではなかった。
まあ、政略結婚の時代ですから、ある程度はしかたないですが。
最初の奥さんとは、「愛のない家庭」という程度だったけど、二番目の嫁さんがひどかった。
精神的に問題ありという女性だったようです。
外では独立戦争、内では嫁さんがむちゃくちゃというんですから気の毒である。
おまけに、このむちゃくちゃな嫁さんが、自分の法律顧問と不義密通ときては、オラニエ公の面目丸つぶれです。
不義密通発覚となれば、男も女も殺してしまうのがふつうだったけど、温厚なオラニエ公は、嫁さんのほうは離婚だけで済ませた。
さて、男の方ですが、一般庶民ということもあって殺されてもおかしくなかったけど、この男の奥さんがえらかった。
自分を裏切った夫の命を助けてくださいと切々と訴えた。
奥さんの心情に打たれたこともあって、オラニエ公は男の命を助けてやった。
ここで殺されていれば、オラニエ公夫人と不義を働いたしょうもない男として忘れ去られたとこですが、6年後、この男と奥さんの間に生まれた男の子が、西洋美術の巨匠ピーター・パウル・ルーベンスということで、この男、ルーベンスの父として歴史に名が残ってしまうんですから不思議なもんですね。
さて、オラニエ公ですが、オランダを支配していたスペインのフェリペ2世は、こいつさえいなければオランダ人民をまとめるものはいないと考えて、オラニエ公の首に懸賞金をかけたんです。
莫大な懸賞金と貴族の地位を与えるというんですから、それに釣られて暗殺者が登場する。
志半ばでオラニエ公は暗殺されますが、彼の息子たちが遺志を受け継ぎ、80年もの戦争を経て独立を勝ち取り、現在のオランダ国王はその子孫ということで、大変勉強になりました。
それにしても、著者ウエッジウッドさんの本は手紙の引用が多いです。
当時のヨーロッパの王様や貴族は、手紙を書きまくったようですね。
議会の議事録からの引用も多い。
書いたものがたくさん残ってるんですね。
日本ではどうなんでしょうか。