七五三で着物を着せられるのは、子供にとって迷惑だと思います。
三十年ほど前、ウチの長女の七五三の着物姿は今でも目に浮かびます。
前後は記憶してないんですが、近所の神社から家に帰った瞬間を記憶してるんです。
家に入った瞬間、長女は、「もう着物脱いでいい!?」と口をとんがらせて言ったんです。
迷惑ですよね。
しかしまあ、子供のことである。
その時の機嫌しだい、虫の居所、気温、湿度、気圧など、色々なことに左右され、コロコロ変わるでしょうな。
さて、今年、焦点の人は、ことちゃんである。
三歳のことちゃんに着物を着せようというのである。
計画は、早い段階から不穏な状況であった。
先日、家内と着物を持って神戸に行きました。
大きさを確認するためです。
もちろん、ことちゃんの了解などとってません。
家内が、着物を出すと、ことちゃんは不審の目で着物を見ました。
なんじゃこれは?
なにをされるのか?
袖を通すとすぐ、「脱ぐ〜」と言い始めた。
袖や裾の長さを見る間、ことちゃんはず〜〜〜っと、「脱ぐ〜。脱ぐ〜。脱ぐ〜」と言い続けました。
関係者一同、これは大変だと思いました。
さて、きのうの、直前打ち合わせ。
予想通り、いや、予想をはるかに上回る事態になってしまった。
ことちゃんが、着物を着ないんです。
なだめてもすかしても虐待寸前までおどしても母親として祖父母としての誇りを投げ捨てて哀願し土下座して泣きついても、ガンとして着ようとしない。
お先真っ暗というかデッドロックというか、どうにもしようがない。
ママが、「着物どうするの?」と言ったのに対して、ことちゃんが平然と「捨てる!」と言い放った時には、万事休すと思いました。
そのときです。
ママに突如悪魔が舞い降りた。
パッと立ち上がって、押し入れをごそごそしてるなと思ったら、はなちゃんの七五三の時のアルバムを持ってきた。
アルバムを開いて、「わあ!はなちゃん、きれいやねえ!かわいいねえ!」
おお!その手があったか!
私と家内も声を合わせて、「わあ!はなちゃん、きものかわいい!」「すてき〜!」「かっこいい!」
ことちゃんの目は、アルバムに吸いつけられました。
ママが、「ことちゃん、着物着る?」と聞きました。
一同、手に汗握り、固唾をのんで、ことちゃんの返事を待ちました。
「着物着る!」
おお!
ことちゃんの力強いお言葉に、今だ!善は急げ!
いっせいにことちゃんに飛びかかり、着物を着せ、髪飾りをつけ、バッグを持たせた。
あっという間に一丁上がり!
「わ〜!ことちゃん、かわいい!」
「きれい!」
「すてき!」
関係者一同口をそろえて絶賛の嵐!
それに対して、ことちゃんはぼそりと一言。
「鏡、見る」
か、か、鏡!!
ど〜ぞっ!
ことちゃんを抱きかかえ、全員鏡に突進しました。
鏡にうつる自分の晴れ姿というか、変わり果てた姿を見て、ことちゃんはボーゼンとしてました。
これで当日は安心!
と思いたいのであった。