「ときのけ」と言う言葉は知りませんでした。
今年の2月に亡くなった作家の古井由吉さんの小説を読んでたら出てきたことばで、辞書で調べたら「はやりやまい」と出てました。
名前だけ知ってる作家だったんですが、新聞でいろんな人がほめてたので一度読んでみようと思ったんです。
私が適当に選んで買ったのは『辻』という連作短編集みたいな本でした。
その中の一話で、おばあさんが昔語りに「ときのけ」の話をするんです。
疫病神の手下みたいな男が現われたと思うと村の家々にお札みたいなのを張って歩く。
すると、人々がばたばた倒れ始める。
それが「ときのけ」と言う。
「ときのけ」にやられた者は村はずれの小屋に隔離されて、食事だけ運んでもらう。
運ぶのは、前に「ときのけ」を生き延びた者か、そういう者がいなければ元気な村人で、風上から小屋に近づいて置いて帰る。
隔離された者に力があれば出てきて食べるし、なければ食べずに死んでしまう。
「ときのけ」が猛威を振るっている間は、このままでは近郷に人が絶えるのではないかと思えるほどだが、過ぎてしまえばそれほどの死者が出たわけではない。
「疫病」の「疫」と、「兵役」などに使う「役」とが響き合うような感じで語られて、人として逃れることができない宿命という印象を与えます。
ちょうどコロナが世界的流行になるころに読んだので非常に恐ろしかった。
私なんかはコロナを語る世代じゃないですね。
孫たちはコロナを語るには幼すぎる。
というか、「語る」ことではなくなるのか。
『NHK特集:コロナの時代』を見る。
最後にこんなことを言うのもよけいなことかもしれませんが、古井由吉さん、私には合いませんでした。