思い出したくないのにときどき思い出してしまうのは、ある業界のナンバーワン企業の社長です。
これほどがめつくえげつない人は知りません。
業界のえげつないがめつい社長たちが「あんな男はない」と言うんだからすごいです。
「自分さえよければ人はどうでもいい」というピュアな考えの人なんですが、この社長の話をすると聞いた人はみんな「そういうやり方は長続きしません」と言うんです。
長続きしてると言っても「いずれ行き詰まる」と言うんです。
行き詰ってません。
私が仕事を始めたころ業界の懇親会でのできごと。
立食パーティでほかの出席者と話してたらその社長がつかつかと近づいてきた。
「こんなところで飲んでたらだめだ。真ん中に出て裸踊りでもしたら面白い奴だと商談につながる」
これが売り上げ利益ナンバーワン企業の社長なのかと、当時23、4歳の世間知らずの私はさびしかった。
この社長の人柄をしのばせるエピソードはたくさんあります。
業界の社長さんたちはゴルフ好きが多い。
で、「懇親ゴルフ大会」を開くことになった。
何度か開催されたんですが解散した。
「あいつといっしょにやるのはイヤだ」という人が多かったんです。
何年かして再結成されたんですがまた解散した。
やっぱり「あいつといっしょはイヤだ」という人が多かったそうです。
カネにもきたないけどゴルフもきたないそうです。
その会社は某大企業から品物を仕入れてた。
某大企業の大阪支店の得意先上位10位以内に入ってた。
本来なら支店長が新年のあいさつに行く重要得意先なんですが、支店長が行きたがらないので営業マンが困ってた。
新年のあいさつに行きたくないってどんな得意先じゃ。
値切りまくるので有名でした。
ある会社の人がこぼしてたんですが、値切りに値切られて「何銭」という単位まで来た。
そこからまだ値切られて「何厘」という単位になってしまったんだけど、コンピュータには「何厘」という単位がないので困ってると言うんです。
給料やボーナスをけちるのでも有名でした。
その社長の娘さんが大学を出て某一流企業に就職した。
社長は娘さんの最初の夏のボーナスに腰を抜かさんばかりに驚いた。
社長が世間並みのボーナスで腰を抜かした売り上げ利益業界ナンバーワン企業のボーナスは、10万円ないということでした。
その社長の朝礼の言葉が業界を駆け巡ったことがあります。
「社員諸君。君たちが仕事を終えて帰る姿を見ると、ふつうに立って歩いてるではないか。会社で仕事をしたら疲れ果てて立ってられなくて這って帰るくらいでないと困る」
あの社長の言いそうなことと皆さん納得であった。
その社長と話してたときこう言われた。
「若草君、この業界でワシほど社員思いの社長はいてるか?」
一瞬、冗談かと思ったんですが、すぐに「この人は冗談を言う人じゃない!」と思い直して私の得意技「えへへ」と笑ってごまかした。
まあこれで中小企業の社長ですから、まだまだ上には上がありますよ。