若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

清水の舞台から飛び降りた人

清水寺秘仏が公開中である。

「清水の舞台から飛び降りるつもりで」という言葉は、よく聞くようであるが、実際に聞いた人は少ないのではないか。

 私が、小学校3年生の時であるから、約50年前の話である。
友達の家に遊びに行った。友達のお父さんは、「チャック」の工場を経営していた。どうかすると、「世界のYKK」みたいになっていたのじゃないかと思う。私は友達の家を、「お金持ち」だと思っていた。なにしろ、ガス風呂があったのだから。その頃、我が家では、風呂は、私が、紙くずと木で沸かしていた。

 座敷で、友達のお父さんが腕組みをして、ぴかぴかの扇風機をにらんでいた。
 当時の扇風機というと、真っ黒けで、ブォーン!と凄まじい音を立てて回るもので、扇風機というより、送風機という感じであった。しかし、おじさんが見つめていたのは、チョコレート色の、いかにも「最新型!」という感じのものであった。
 おじさんは、扇風機をじーっと見つめていた。私も、かっこいいなー、と思って見ていた。

 しばらくして、おじさんが言った。
「清水の舞台から飛び降りたつもりで買うか!」

 この言葉を聞いたのは、このときが最初で最後であると思う。当時、中小企業の経営者が扇風機を買うのに、それほどの決意が必要だったのであろう。

 もう一つ、聞くようで聞かない言葉。
小学校一年の担任の先生は、音楽の時間、いつもこう言われた。
「皆さんも、ミウラタマキさんのような、玉を転がすようなお声で歌ってくださいね」

 これは小学一年生の私を悩ませましたね。
ミウラタマキ」とは誰か?後になって、この人が偉大な歌手であったと知ったときは非常にうれしかったが、一年生の私にとっては謎の人物であった。
 そして、「玉を転がすような声」とは、どんな声なのか?私は、知っている限りの球形の物体を思い浮かべて、それが転がるところを想像した。しかし、そのどれもが、「いいお声」とは結びつかなかった。
 特別の「玉」があるのだろうか?
 「ミウラタマキ」さんの「タマ」と、「玉を転がす」の「タマ」は、関係あるのだろうか?等と、私の思考は袋小路に入っていった。

 私の頭に謎を残したまま、先生は一学期で学校に来なくなった。
クラスの友達の話では、先生の旦那さんが、ナイフを持って先生を追い掛け回しているということであった。