土曜か日曜は、母が入居している施設に行く。
ここの、なんとも言えないゆったりした空気はいいものです。
何の警戒心も疑問もない世界です。
Aさん「八百屋で、みかん買うたのに、おつりくれへんねんがな」
Bさん「あらまあ。あんた、いくら払ったの?」
Aさん「十万円札で」
Bさん「十万円札で?それはちょっとなー」
70過ぎと思える男性、内科のお医者さんだったCさんが、私に近づいてきて手招きする。
「はい」と前に立つと、何かを手渡す仕草をして
「はい、これは食前ね。こちらは、食後ですからね。間違えないようにね。」
同じ歳格好で、中小企業の経営者だったDさんは、いかにも頑固一徹の社長という風貌です。
よく廊下などで立ち止まって、「パンパン!」と拍手を打って、礼拝しておられる。商売繁盛を祈っておられるのでしょう。
Dさんの説教は、なかなか迫力があります。
施設の職員をつかまえて、突如怒鳴りはじめるのです。
「だめじゃないか!えー!きみ!こんなことでどうするんだね!何度言ったらわかるんだ!」
職員さんも慣れたもので、神妙に返事をします。
「はい。以後気をつけます」
「うん!頼むよ!キミもね、やればできるんだから!」
80過ぎの女性Eさんは、いかにも人のいい、田舎のおばあさんという感じです。
Eさんが、私に近づくと、
「あんたにこんなこと聞くのもなんだけど、あの、裏のおばあさんの葬式の時ね、お香典いくら包んだの?」
返事に困ります。
大分前に亡くなられた女性Fさんは、借家を何軒か持っておられたようで、その家賃の集金の事を、しきりに気にされていた。
「はよ帰らんといかんねん。家賃集金せんならんねんがな」
「心配せんでもだいじょうぶですよ。息子さんがね、ちゃんとしてくれてますよ」
「そうかな〜・・・息子な〜・・・あれも、欲深いからな〜」
女性Gさんが、おやつの饅頭を、向いに座った男性にすすめている。
「お饅頭ですよ。食べて下さいよ」
「・・・骨が固い」
「なんで私の骨が固いかというとね、それはね、女学校の校長さんが偉かったの。人間は足から弱る言うてね、歩け歩けでね、おかげで骨が丈夫になったね」
話は脈絡なくはずむのである。
私たちの会話も、似たようなものではないかと思いますね。