若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

散髪に行ったんですが・・・

私はいつも会社の帰りに散髪に行く。
二十年来通っている駅前の散髪屋である。

夫婦二人でやっている。主人は六十年配、ゴルフ、つり、猟、日曜大工と多趣味である。店内の改装などは自分でやるほどの腕前である。
音楽の趣味は演歌だろうと思っていたのだが、ポップス派で、古いウエスタンが好きである。
奥さんは、気のよさそうな人である。

散髪にも不況は影響するようで、最近は客が少ない。
きのう行ったら、お母さんに抱かれた赤ちゃんを散髪していた。
お母さんと奥さんが、一生懸命あやしたり、おさえたりしているけれど、赤ちゃんはなかなかじっとせず、見ていても大変そうであった。

赤ちゃんがすんで私の番になった。
奥さんは奥に引っ込んだ。
ひげをそる時になって、蒸しタオルを持って奥さんが現れた。

ひげをそる時に、イスを倒してのんびりゆったり身体をのばして、蒸しタオルを顔に乗せられるときが私は好きである。
心身ともにくつろぐ。

主人がひげをそり始めた。
そりながら、奥さんを叱りだした。
さっきの赤ちゃんの時、補助の仕方がまずいから、仕事がしにくかったと言うのである。
奥さんは反論した。
赤ちゃんが動くのは仕方がない。強くおさえるわけにはいかない。
主人が怒鳴った。
それをうまくじっとさせるのがプロではないか。
奥さんは猛然と言い返した。
私はプロではない。結婚する時の約束がどうのということまで持ち出した。

二人は、私の身体越しに激しく言い争った。

言い争うのはよい。夫婦喧嘩はよろしい。
しかし、時と場合ということがある。

主人は今、かみそりを手に私のひげをそっているのである。
主人は、奥さんが言い返している間、私のひげをそる。
そして、手を止めて奥さんを怒鳴る。

つい先ほどまで、ゆったりのんびりとくつろいでいた私の身体は硬直し始めた。

かみそりを振り回しているのじゃないか?

私は恐る恐る薄目を開けた。
振り回していた。激しく振り回していた。

思わず目を閉じた。
足に力が入った。こむら返りを起こしそうであった。

言い争いは続いた。
主人の手にだんだん力が入ってきているのがわかった。
ひげをそるというより、皮膚を削るという感じになってきた。
私の身体はますます硬直し、イスの上でブリッジ状に反り返り、ねじれ、ひきつった。

こわかったです。