若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

衝撃の看板

町で見かけた看板。

下町の、ごみごみした通りに、小さな店と住宅がごちゃごちゃと並んでいる。
小さな不動産屋の隣は、小さなハンコと名刺屋でその隣はふつうの民家で、その隣に「カラオケスナック」の看板。
どう見てもふつうの民家であるが、プラスチックの看板が出ている。
その看板の下に、手製のベニヤ板の看板がぶら下がっている。
墨で下手な字で、「底価格システム!」と書いてある。

「低価格」ではありません。
「底価格」です。

物凄い迫力を感じてしまった。
十年ほど前、ダイエーの中内さんが、「これからは『カットスロートコンペティション』の時代だ」と言ったことがある。
「相手ののどをかき切って倒す、やるかやられるかの競争」というのである。
いやな言葉だと思ったが、それを思い出した。

別の下町の裏通りに、古ぼけた長屋が何軒も建ち並んだ一角がある。
なぜここが「裏通り」かというと、すぐ近くにかなり大きな較差点があって、銀行などが店を構えているからである。
そこから、四、五十メートルくらいしか離れていないのに、裏通り感あふれる一帯なのである。

建ち並ぶ長屋自体が、すべてをあきらめた感じで立っている。
そのくたびれはてた長屋の真ん中あたりの家の入り口に、ショッキングピンクの看板が見える。

「バー・女豹」と書いてある。
古びた長屋が何列も並んでいて、すべて民家で、一軒だけがバーなのである。
しかも「女豹」!

これも物凄い迫力を感じさせる。
鬼気迫るというか、妖気漂うというか。

この「女豹」に一度お会いしたいと思う。
ほんとに「女豹」か?
失礼ながら、はじめから疑っているのである。

この場所で、「バー・女豹」を開店する時点で、この人はかなり追い詰められていたと思う。
年齢的、経済的に切羽詰っていたと思う。

それにしても、ここで、この場所で、「バー・女豹」を開店するのは、かなりの勇気がいったと思う。
よほど気の強い人であろう。

そして、この「バー・女豹」に入るのも、かなりの勇気を必要とすると思う。
私にはできない。
絶対にできない。

しかし、私がはじめてこの看板に気づいてから、十年以上になる。
営業は続いているのか?
看板をはずす気力もなくて、そのままになっているだけなのか?

こういう、衝撃的看板を見た後は、なんとなくしみじみとしてしまう。