イラクで武装グループに捕まった日本人男性の家に、非難の電話が相次いでいる、と新聞に書いてあった。
そうかな。
非難しているのかな。
こういうときすぐ電話をする人たちは、考え深くない。
考えてると電話なんかできない。
この人たちは「腹たて」なのだと思う。
勝手なことをするな!また税金の無駄使いだ!
などと叫ぶのだが、いろいろ考えたすえに叫んでいるわけではない。
なんか知らんが腹が立つので、思いついたことを口からでまかせに言っているだけだ。
この人たちに限らず、人間はたいがい口からでまかせにものを言っている。
私なんかその典型だ。
私の言うことをまじめに考える必要はありません。
真剣に耳を傾けなければならない言葉など、そうあるものではない。
西武ライオンズが日本シリーズで優勝した。
祝賀会でビールの掛け合いをしたことをかんかんになって怒っている人がいる。
つい何百キロ先で地震の被害で大変なめにあった人たちがいるのに、ビールを掛け合うとは何事だ。それでも人間か。
この人も「腹たて」だ。
この人はビールの掛け合いはしないが、ビールかチューハイを飲むくらいはしているだろう。
ビールを飲みながらテレビを見て、ビールの掛け合いを怒っている。
ビールの掛け合いを見ていてあんまり腹が立つので、画面の西武の選手にビールをかけたら、選手が「ワッ!」と叫んで振り向いたので、焦ってテーブルの下に隠れたりする。
新聞は、「非難の電話が相次いでいる」と書かず、「腹たてからの電話が相次いでいる」と書くべきだ。
人間は口からでまかせを言う生き物である。
母がぼけて施設に入ってから、つくづくそう思う。
入居者たちが、わけのわからんことを言い合って、和やかに話が弾む。
見ていて不思議である。
すぐ、私たちも似たようなものだと気づく。
私に何かしゃべりかけて、私がうなずいたからと言って、わかっていると思ったら大間違いだ。
口からでまかせに対して適当に相槌を打つ。
これが会話の基本だ。
基本さえ理解していれば間違いない。