若草鹿之助の「今日はラッキー!」

日記です。孫観察、油絵、乗馬、おもしろくない映画の紹介など

「忠勇」

「忠勇」というのは父が飲んでいた酒の名前だ。

我家にはいつも「忠勇」の一升瓶があった。
父がなぜ「忠勇」を飲んでいたのかは知らない。
父は、酒の味や銘柄について話したことはないから、たぶん近所の酒屋さんが「忠勇」を扱っていたからだろう。

この酒屋さんとは55年もの付き合いになる。
長男が後を継いでいるのだが、私は弟の方と小学校で同じ組になったことがある。

小学生の頃、私たちが表で遊んでいると、この兄弟が、店を手伝って、自転車に一升瓶の入った袋を下げて走っていたりしたものだ。

去年の暮れ、二十四、五日頃だったか、兄さんがいつものように請求書を持ってきた。
今日、表に酒屋の車がとまったなと思ったら、弟がおりてきた。
久しぶりだ。
何かと思ったら、集金だという。

集金はいつも二十日だ。
不審に思って、兄さんは?と尋ねた。

「兄貴、死にました」

二十八日に手術をして、二十九日に亡くなったそうだ。
私は、会社の帰り酒屋さんの前を通るが、二十九日からは休みだったので気づかなかったのだ。

子供の頃、年末にこの酒屋さんで餅つきをするのが楽しみだった。
母が、私や妹に見せてやろうと思って、毎年頼んでいたようだ。
朝暗いうちから母に連れられて酒屋さんに行った。

初めてのとき、私は臼が石だったのでがっかりした。
絵本や漫画で、木の臼を見ていたからだ。

蒸しあがったもち米が、どさっと臼に入れられて、威勢良くつきあがって行くのや、女の人達が手早く丸めていくのを見るのは楽しかった。
昆布や砂糖を入れたもちはつくのがむつかしそうだった。

そのとき、酒屋の兄弟もいたはずだが、まったく憶えていない。