きのう、家内が、岩波文庫の『ソクラテスの弁明』を買った。
家内は、前の日の朝日新聞の「天声人語」で、「岩波文庫で最も売れたのは、『ソクラテスの弁明』だ」、と書いてあったからあわてて買ったのではない。
「天声人語」とは関係なく、たまたま買いたくなったから買ったのである。
と思います。
家内はソクラテスファンだ。
町内の哲学好きの奥さんたちと、「ソクラテスを励ます会」を作って、月一度、公民館で集まっている。
ソクラテスのサイン入りブロマイドを、宝物のように大事にしている。
ニセモノだという人もあるが、家内に言わせればたしかなものだ。
ヤフーのオークションで買った。
出品者は、戦前まで代々アテネ近郊で庄屋をつとめたギリシャの旧家の主で、大掃除の時、蔵から出てきたものだというから、まちがいないだろう。
家内がソクラテスファンになったのは、よくあるパターンである。
子供のころ、イソップ童話が好きで、成長するにつれソクラテスが好きになった。
こういう人は多いと思う。
家内が買った本をみて、おかしいなと思った。
「プラトン著」と書いてある。
「プラトン」は姓だろう。
「ジョン・プラトン著」とか「フレデリック・プラトン著」とか書くのが正式ではないのか。
「『ソクラテスの弁明』は誰が書きましたか」
「プラトンです」
「『徒然草』は誰が書きましたか」
「吉田です」
「『古今和歌集』の編者は誰ですか」
「紀です」
「『源氏物語』は誰が書きましたか」
「紫です」
「『枕草子』は誰が書きましたか」
「清です」
これはおかしいだろう。
ちゃんと書いたほうがいい。
『ソクラテスの弁明』はあまり面白くなかった。
続編の『ソクラテスのべらんめい』のほうがおもしろかった。
弁明を受け入れられなかったソクラテスが、いなおって、べらんめい口調でまくし立てた記録だ。
「なーに言ってやんでぇ、べらぼうめ!おいらアテネっ子だい!死刑が恐くて哲学ができるかってんだ。じょーだんじゃねえぜ!さあ、矢でも鉄砲でももってこい!」
こうタンカを切って、トーガのすそをつかんでケツをまくり、片肌脱げば、二の腕かけた自慢のオリーブの刺青!
この続編は、岩波文庫ではなく、若草文庫に入ってます。